クラゲの皮をかぶった人魚姫
□Happy Happy Greeting
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ギラギラと容赦のない太陽は、夕方になっても衰えることなく熱を放出している。ムワリと襲い掛かってくる湿気のこもった空気。ベトつく素肌。何もしていなくても流れてくる汗。
「楽しかったねー」
そんな不快とは正反対に、カラッと晴れたナギの声。今まで鮫柄のメニューでみっちり泳いでいたはずなのに、疲れた様子が全く見えない。
「でも、とてもハードでした……」
レイちゃん体力ないねー、とナギにからかわれるレイ。まぁ楽しそうだから放っておこう。
「ウチもあれくらい練習やらなきゃダメかなぁ?」
マコは今回の練習でメニュー面の学習をしたようだ。マコらしい。
「俺は泳げればそれでいい」
ハルは相変わらずマイペース。
「あれくらいでヘバるなんて情けねぇなぁ」
両手を頭の後ろで組んで、見下すように言うのはリン。あれくらいって言ったって、結構ハードだったと思うんだけど。
「俺も今日はしんどかった〜。もっとゆっくり泳ぎたい」
むしろたゆたってたい。いつもいつもハードな練習だけじゃつまらない。
「それじゃ練習にならねぇだろうが」
「なんてゆーか……トモちゃんはいつでもトモちゃんだね」
「どーゆー意味やねん、それ」
とりあえず、仲良く談笑していたわけだ。
ここで今の状況を説明しておこう。
今日は鮫柄で岩鳶との合同練習があった。夏休み中だし、近隣校だし、仲良くしようぜ、というミコ先輩発案の元。コウちゃんは家の用事だとかで欠席。来れないことをとても残念がってたけど、ミコ先輩のことを考えると来れなくて良かったのかもしれない。俺とか、リン的に。かっこ笑い。
それとは別に、何かの話の流れで夏休み中の課題話になって、一緒に片付けよう! みたいになって。これからハルのウチで課題やっつけ会兼お泊まり会。まぁ課題って言ったってもう8月だし、ほとんど残ってないけど、俺は。
んで今、みんな揃ってハルんチ向かってる。以上、状況説明終わり。
「あ! コンビニ発見! 小腹すいちゃったから寄っててもいーよね?」
テンション高く元気なナギが、俺らの返事を聞かず青いコンビニへ入っていく。まぁ、涼めるし、小腹がすいてるのにも同意だし、反対する理由がないので、5人でゾロゾロとナギの後を追う。
「ふぁー! 生き返る〜」
いらっしゃいませ〜という店員さんの声にかぶさるように本音が漏れる。外の空気とは比べ物にならないくらい、ここは天国だった。
ハルはからあげ。リンはチキン。二人とも案外ガッツリだった。渚はロールケーキ。歩きながら食べるんだろうか? レイはブランパン。カロリーとかチェックしててレイらしい。マコと俺はアイスコーヒー。匂いがいいんだ、ここのコーヒー。
それぞれ戦利品を手に天国(店)から出たところで、俺はとある作戦を決行し始めた。
「ごめんやけど、俺寮に携帯忘れたっぽいから取りに戻るわ。先ハルんチ行っといて」
「待て、友美。俺も付き合う」
んじゃまた後でな〜、と手を振って来た道を戻ろうとした時、リンに止められる。リンは作戦を知る唯一の同士なのでさんきゅ、と返し、今度こそ岩鳶メンバーと別れた。