クラゲの皮をかぶった人魚姫
□1Fr.
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突然の父さんの海外赴任。母さんはそれに付いて行った。俺は日本語の通じない国に行くのなんてまっぴらごめんだったから、婆ちゃんの家がある街に戻ってきた。……婆ちゃんチに戻る訳ではないけれど。
私立鮫柄学園。全寮制の男子校が、新しく俺が通う学校。父さんの転勤が急だったせいで手続きが遅れ、始業式の翌日に初登校&入寮となった。
職員室から担任に連れられクラスへ向かう。2年B組。見事男ばかりだ(当然だ)。ヤローの視線を集めたって、嬉しくもなんともない。
担任に促されて自己紹介。
「矢吹友美です。大阪からこっちに戻ってきました。よろしく」
お愛想程度に笑顔を向けておく。他の連中もヤローの自己紹介なんて興味がないんだろうな、視線は一瞬で霧散した。
その中でただ一人。見開いた目を向ける赤毛の男。俺もそいつを凝視する。ヤロー同士で見つめ合うとか何やってんだ、俺。けど、その赤い瞳には見覚えがある。もしかして……?
「リンリン?」
「リンリン言うな」
「じゃリンちゃん」
「ちゃん付けて呼ぶな」
「わがままやなぁ、リン!」
さっきのお愛想レベルの笑顔が自然と満開になっていく。嬉しさのあまりリンに駆け寄って、首に腕を回して抱きつく。他のクラスメイトや担任がドン引きしてるけど、この際どうでもいい。
「ひっさしぶりやなぁ! リンも戻ってきてたんや。ってゆーか……」
一度深呼吸して、ニヤリと笑う。
「ますます格好よぅなったな、リン!」
「ばっ……馬鹿か、お前はっ」
脳天にチョップを受けたけど、そんな赤い顔で悪態付いたって可愛いだけだ。
「感動の再会中悪いが、ホームルーム始めるぞ。矢吹、そこの空いてる席に着け」
「あいさー」
窓際の一番後ろ、リンの隣。なかなか素敵な俺の指定席――。