千思万考

□番外編U
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 殺刃賊壊滅後、燕青やセイと別れ、俺は茶州をフラフラと彷徨っていた。ひとつの場所に留まることは、隠れ鬼をしている(ましてや、自分が隠れる側の)人間にとっては致命的だ。そう分っていながらもつい長居してしまう。ここが、心地いい。まぁ、いつまでも居られるとは思ってないが。

 だが、少なくとも今夜はここで過ごす。軽く食事をとろうと街まで出てみると、迷子の少女を見つけた。泣かないように頑張ってはいるが、涙を止めることは出来ないらしく、顔をくしゃくしゃにさせている少女。周囲の人間は見向きもしない。俺はその少女を放置することが出来ず、気付けば声をかけていた。

「どうした? お嬢ちゃん。迷子か?」

 少女と視線を合わせるように屈みこみ、持っていた手巾で顔を拭ってやる。

「秀麗は迷子じゃないもん!」

 涙声で抗議する少女を安心させるように笑顔を向け、頭を撫でてやる。

「そうか。じゃぁ迷子なのは母親かな? お母さんといつまで、どこで一緒にいたか覚えてるか?」

「この辺りでかぁさまが二胡、弾いてくれてたの」

 懸命に話す少女にそうか、と相槌を打ちながら思考を巡らせる。二胡? 楽器屋か? たが、二胡くらいなら持ち運べるからむしろ宿かも。……町の人間に聞きまわった方が早いかもしれない。
 とりあえず、手近なところから、と少女の手を取り、目の前にある楽器屋に入ろうとした、その瞬間。差すような視線を感じた。隠すことのない、殺気のこもった視線だ。殺刃賊の残党か? 警戒心を最大に引き上げ、視線の元を手繰る。が、相手も余程の手だれなのか、場所を特定することが出来ない。……どころか、俺が振り返った瞬間に殺気も視線も綺麗に消えた。
 ……今のは何だったんだ?

「どうしたの、お兄ちゃん?」

 少女の声で意識が戻る。警戒を解くことは出来ないが、今のところ害はなさそうなので放置しておこう。

「何でもない。さ、迷子のお母さんを探そうか」

「あ! かぁさま!」

 店に入る前に、少女が母親を見つけたらしい。俺の手を離し、一直線に駆け寄っていく。感動の母子の再会だ。

 “美しき家族愛”が俺には眩しすぎて、背を向けた。

「さ、今日の晩飯どうしようか」


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