千思万考

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「お主には貴妃付き女官となってもらう。無論、拒否権はなしじゃ」

 全てはこの一言で始まった。

* * 1 * *

「拒否権はなくとも拒否致します。百歩譲って貴妃付きまぁ良いとしましょう。だが何故“女官”なのですか!?」

「お主なら似合うじゃろうて」

 理由になってない。目の前にいるくそじじいは官吏の中でも最高位に付く、霄太師。

「遂にボケが始まりましたか。何なら俺が、あっちの世界に行くお手伝いをさせて頂きますが……」

 そもそも、俺の昼寝場所に、このくそじじいが来た時から嫌な予感はしていたんだ。面倒事しか持ってこない、しかも人の嫌がることを強制させる、そんなタヌキは苦手な相手の一人だ。
 俺の怒りもそろそろ頂点に達する。こういう時に限って何故短剣さえ持っていないのか、と後悔。

「お主はいつでも元気じゃのう。もっと老人を労わらんかい!」

 タヌキは飄々と笑う。ますます俺の怒りも募る。

「殺したって死なないくせに、何抜かしてやがるんですか。大体俺が面倒事を引き受けるとでも? 他を当たって下さい」

「拒否権はなしじゃと言うたじゃろ。もちろんタダで、とは言わん。そうだな……任務終了後ひと月、わし付きの官吏、という職を与えよう。過ごし方はお主の自由じゃ。わしはその間、お主に何も雑務は与えんよ」

 その報酬に、クラリと心が揺らぐ。タヌキ付きの官吏、というのは聞こえが凄ぉ〜く悪いが、言い換えれば一ヶ月堂々とサボれる、ということだ。それはなかなか、美味しい条件に見える。

「良いでしょう。では、詳細を」

 片方の口角を上げて問うと、タヌキはニンマリと笑った。







「王の為? 今まで放っておいた貴方が何寝ぼけた事を言ってるんですか」

 今回の貴妃は、現国王紫劉輝の教育係として呼ばれるらしい。その理由を聞いて、本気でこのじじいは耄碌しくさったか、と思った。

「このままではチと問題じゃろうて。わしの知恵を振り絞って出てきた良案じゃ。お主には貴妃の護衛を。女官の方が傍に居やすいだろうし、相手が油断するやもしれん。だから女官なんじゃ」

「その理由、絶対こじ付けですよね。最初に言ったアレが本音でしょう。まぁ、もうどうでもいいですが」

 面白そうに笑うタヌキを横目に、俺は大きくため息をついた。

「あぁ、そうだ。あなたが王の為に動こうと勝手ですが……俺を巻き込まないで下さいね。俺の仕事は飽くまで貴妃の護衛。それ以上も以下もなしです」

「むむぅ。少しはあの主上にカツを入れてやってくれるかと思ったが……やる前から拒否か。まぁ仕方ないのぉ。では明日から、女官頑張ってくれ」

 フォッフォッフォッ、と顎鬚を扱きながら、霄太師は宮へと戻って行った。その後ろ姿を見送ってから、もう一度寝直そうと試みるが、眠気は訪れない。こうなったら府庫で邵兄とお茶でもしよう。そう思って俺は府庫へと足を向けた。


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