白と黒

□Let's Advantage Festival !
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「さて問題。夏と言えば?」

「夏休みと大量の課題。補習に模試に登校日」

「海に水着にガールハント。波打ち際白いワンピースの女の子とあははうふふの追いかけっこ」

 俺の問いに我が名付け子は何とも夢のない、その恋人は逆にドリーミーな答えをはじき出してくれた。



夏祭りを始めよう。



「……聞いた俺が馬鹿だったよ」

 はぁー、と大きくため息をつき、ソファーの背もたれに体重を預ける。

「で? それがどうしたんだ? 城内が慌ただしいのと何か関係があるのか?」

 コンラッドと脱走したユーリに変わって執務を片付けていたセーシュンが席を立つ。俺の相手をしてくれる気になったらしい。ケンと二人で俺の目の前のソファーに腰かけた。

「ある。……ってか気付いてたんだ。多分ユーリはまだ気付いてないぞ?」

「渋谷はずっとウェラー卿と城下へ逃げているし、その分執務に当たる星瞬は城に籠りっきりだしね」

「嫌でも気付く……ま、当然か」

 確かにここ最近執務(と先生)から全力で逃げるユーリのお陰で、セーシュンが執務をこなしている。城内の雰囲気が変われば気付くのも容易という訳だ。

「もうすぐユーリの誕生日だろ? 降誕祭に向けて動き出したんだ」

 それで最初の問いに戻るんだけど、と続けた。

「夏と言えば渋谷の誕生日って? さすがは渋谷の国だ」

「まぁ、国のトップだし不思議ではないだろ。で、本題だ。今年の降誕祭には日本テイストを盛り込むつもりだ。多分知識を貸してもらうこともあると思うから協力よろしく」

 ニッカリ笑って伝えると、二人は少し呆気にとられたような顔をして、曖昧に頷いた。

「……今年もドッキリ企画にするのかい?」

 いち早く立ち直ったのはケン。指で眼鏡を押し上げ首を傾げる様子はとても可愛らしい。

「いや、規模が大きくなりそうだからそれは難しいかな。ほら、現にセーシュンだってケンだって城内の雰囲気が変わったのに気付いただろ? いくら城に籠ってないからといって、このまま全く気付かないなんてありえないからな。だ・か・ら! 今年は完成度の高さで勝負するつもりだ!!」

 拳を上げて力説する俺に、セーシュンもケンも盛大なため息をついた。失礼な奴らめ。

「勝負って……勝つも負けるもないだろ」

「何だよ、その可哀想な奴を見る目……。気持ちの問題だ、気持ちの。ユーリのリアクションがでかければ勝ち、そうじゃなければ負け」

 セーシュンとケンの冷めた視線、俺にとっては結構痛いんだぞ、くそぅ。

「ふーん。で? 日本テイストを盛り込むっていうのは?」

 興味なさ気に鼻を鳴らしたのはケン。俺って馬鹿にされすぎてないか? そんな傷心はひとまず置いておく。泣いたって嘆いたって相手にされないのは分かり切っているから。
 俺は気持ちを切り替えて、一気に浮上してみた。

「よくぞ聞いてくれました! 今年の降誕祭のテーマは“日本の夏祭り”! 日本で過ごすお前らにはお馴染み・定番かもしれねーが、そのお決まりをこっちの住人と過ごす機会はないだろ? 新鮮だろ? ピッチピチの魚人姫並だろ? 国民としても陛下・猊下・怜下のお過ごしになられている世界の催し物は興味絶大。協力も惜しまない。その上降誕祭ってんで予算もかなり出る。ばばんばばんばんばーん、と城下に眞魔国アレンジを加えた日本の縁日を再現したい訳よ!」

 ほぼ一息で告げた自分に拍手を送りたい。だが目の前の二人の表情は相変わらず冷めている。

「発案者はティア?」

「……日本の文化に詳しいのはティアくらいだもんね。ウェラー卿はどっちかっていうとアメリカ寄りだし」

「まぁ、地球に行った時、コンラッドはアメリカ、俺は日本に滞在してたからな。で、この話はコンラッドも先生も乗り気だし、兄貴も賛成してくれてる。この案で動き出してる。完成度を高めるためにお前らの協力が必要不可欠だ!!」

 協力してくれるよな? という俺の言葉は完全スルーだが、ふんわりと笑う二人を見ると興味は持ってくれたらしい。

「眞魔国で夏祭りかぁ……。面白そうだな」

 それに気を良くした俺も、自然と頬が緩む。

「だろ? しかも今回はアニシナちゃんに花火的なもん開発して貰ってんの。間にあったらさらに夏祭りらしくなる! すっげぇ楽しみ!!」

 もはやその笑顔は、二人が興味を持ってくれたことに対してではなく、祭そのものへの期待からだった。


* * * * *


「で? 今はどんな内容で話が進んでるんだい?」

 空になっていたカップに紅茶を淹れ直していると、ケンが尋ねてきた。俺はうーんと唸って答えをまとめる。

「祭といえばまず夜店だろ? 大通りに商店スペースを設けて希望者を募る。完璧に日本の夜店を再現する訳じゃなく、飽くまで眞魔国風だ。俺の知識だけでも充分だろ」

「魔王まんじゅうの店とか、眞魔国特産が並ぶんだな。こっちの料理って案外美味いから、そういうのが集まれば楽しいだろうな」

「集まる見込みは?」

「もちろん、ある程度見込みはある。みんな興味あるし、参加したいからな」

 うんうん、二人ともいい感じに食いついて来た。やっぱりこういったイベント事は準備段階からみんなでわいわいやるのが楽しい。本来の目的はユーリの降誕祭なはずだけど……まぁいいだろう。

「中心部にはステージでも作って一服スペース。早い時間なら子供たちの舞台にしてもいいな」

 眞魔国体操とか作って盆踊りちっくにやるのも楽しそうだ。

「そうか、折角渋谷が義務教育を導入したんだもんね。その成果を見れるのはいいんじゃない?」

 うん、評判も上々だ。本家本元の二人に肯定されるのも悪くない。

「かなり形になってるじゃん。俺たち、何を協力すればいいんだ?」

 セーシュンが問う。ケンも同じ様な表情で俺の答えを待っていた。

「そう、形にはなってきてるんだ、計画段階では。でも重要なのが一つ残ってる。大問題だ」

 自然と眉間に皺が寄る。この問題はいくら悩んだ所で、満場一致で納得のいく答えが出なかったから。

「え? 何? 警備とかなら無理だぜ? 全くもって想像つかない」

「それは大丈夫。適当に兵士を置けばいい。問題はそんなことじゃなくて……名称だ」

「「……は?」」

 俺の真剣な悩みに、セーシュンとケンが口を揃えた。揃えた、と言っても一文字だが。

「なーにが“は?”だ。そんな可愛い顔したって何も出ないぞ。名称だ、名称。祭の名前! 俺が提案するとことごとく却下されるんだ!」

 そりゃもう、バッサバッサと。ほぼ満場一致で。聞かなかったことにされることも多い。

「……ちなみに、一番の自信作は?」

「そうだなぁ……。普通に降誕まつりも捨てがたいけど……一番はやっぱり“アドバンテージフェスティバル”かな」

「アドバンテージ……それならいっそ有利まつりの方がマシだな」

 俺の自信作に二人とも眉を寄せた。この空気は兄貴たちが一刀両断するときに似てる。

「……ティアのネーミングセンスってホント凄いよね……」

「なっ……! そんな憐れむ様な目で俺を見るな! 俺だってティアが名付け親だなんて思いたくないっ!」

「ちょ……! セーシュン、それどういう意味だよ!?」

 ケンの冷めた言葉にセーシュンが慌て、そのセーシュンの言葉に俺が傷付く。そして更に、俺の言葉に反応する第三者……。

「そのままの意味だろう。いくらこの祭りの発案者がティアだとは言え、ネーミングセンスゼロのお前に名前を決める権利はない」

「げっ……コンラッド……」

 兄貴が無言で切り捨てるタイプなら、こいつは一言二言三言(では足りない程)の嫌味付きで、場合によっては発言する前に“不可”を唱える。多分こいつの中に、答えは“却下”しかないんだと思う。こいつが入ったら溢れる自信も、微かな希望も露となる。そういう意味では本当に鬱陶しい奴だ。

「“双黒祭”。なんかそれに決まったらしいぞ。ギュンターが騒いでいた」

「何で俺がいないとこで決めるんだよ!? 今折角セーシュンとケンに意見仰いでたのにー」

「……多分、ティアのいない内にって思ったんじゃない? フォンヴォルテール卿も」

「だよな。ティアの意見聞いてたら、決まるものも決まらない」

「お前ら俺の扱い酷すぎるー!!」

 やばい。俺泣きそう。
 俺の怒声も心の声も綺麗さっぱりスルーされた。くそぅ。この祭で絶対見返してやるー!!


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