白と黒

□風邪
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 ヤバい……久しぶりに風邪ひーたかも……。

「兄貴、悪いけどこんな調子だから2〜3日休み貰いたいんだけど……」

 ズズ、と鼻をすすって告げた言葉に、兄貴は盛大なため息を返してくれた。

「お前が風邪をひくとはな。無理せず暖かくして休め」

「ありがと。あともう一つ。ヨザと有利たちには内緒にしといて。ヨザはともかく、有利たちにはうつしちゃ悪いし……」

 頷く兄貴を確認してから、俺は静かに退室した。


* * * * *


 ……のど痛い。鼻痛い。鼻水も鬱陶しい……。健康管理がなってないな〜、と自分に呆れる。風邪特有の倦怠感に包まれて、フワフワと宙を漂う感覚に襲われる。症状が軽いうちに撃退してしまいたい。そう思って自室のベッドに転がった。
 ……。
 横になった途端に鼻が詰まって息苦しくなる。仕方なく体を起こすと鼻も通る。
 ……。
 俺はベッドから毛布を引っ張り出しソファーへと移った。もちろん、体が固定されるようにクッションもセットした。……何かこれだけで無駄に体力を使ってしまった。俺はゆっくりと視界を閉ざし、ふかふかのクッションに身を投じた。

 しばらくその状態でまどろむ。熱が出てきたのか、顔が火照ってきた。でも体を動かすのが億劫で、“それは気のせいだ”と思い込む。
 熱に浮かされて頭が朦朧としているらしい。ここにいるはずのない気配を感じる。……こんな時に傍にいて欲しいと思うなんて。ヨザの愛に飢えてるつもりはないハズなんだけど。小さくため息をついた時、ひんやりとしたものが顔に乗せられた。

「大丈夫か? っていうのも可笑しいか。大丈夫そうに見えねーしな」

 その声に一気に現実に引き戻される。バチッという効果音が聞こえてきそうな勢いで目を開けると、求めてたオレンジ色が視界をいっぱいにした。

「……ヨザ? な、んで?」

「ありゃま、可愛い声になっちゃって。ティアの姿が見えないから、急な仕事が入ったのかな〜っと思って閣下に聞いてみたら、風邪ひいたって言うだろ? これは俺の出番かな〜、と」

「俺、口止めしといたはずだけど?」

「らしーな。どーせ、心配させたくないー、とか、うつしちゃ悪いー、とかだろ。風邪ひーて寝てる、って聞いた時点で心配するし、顔見れなきゃもっと心配だ。それに……」

「それに?」

「坊ちゃん方ならともかく、普段から鍛えてる俺が、お前の風邪うつされるとでも?」

 ヨザは遠慮なしに俺の鼻を摘む。あまりの痛みに眉間にシワを寄せながらも、俺も言い返す。

「思わないけどっ……万……おっ、億万が一ってこともあるだろっ。俺も油断してこのザマだ。お前もないとは言い切れないだろっ」

「そーんな可愛い顔と声で凄まれても、可愛いだけだぜ?」

 鼻を摘んでいた手で、今度は眉間をグッと押される。その手を押し返す気力もなく、されるがままになっていた。

「……まったく。抵抗できない程に弱ってんのかよ。ここにいてやるから少しは眠れ。眠れなくても目だけは閉じてろ」

 そう言って目を覆うヨザックの手に、自分の手を重ねて口を開く。

「いてくれなくても大丈夫だ。一人でもちゃんと休める。余計な心配するな」

「一人で休むことが出来ても、寂しさは紛れないだろ。寂しくないとは言わせねーぞ? お前が重ねてる手が全てだからな。こんな時こそ甘えろ、ティア」

「……やっぱヨザには適わないな」

「そりゃ、相手がティアだからな。ほら、口も閉じろ。俺はここにいるから」

「ん。ありがと」

 そして俺は再びまどろみの中に身を委ねる。火照った顔にひんやりと気持ちのいいヨザの温もりを感じながら……。


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