□■今度はマのつく最終兵器!■□
* * 1 * *
ひっさしぶりの我が家。兄貴に報告も終わったし、ゆーーっくり風呂でも入ろう。
俺の前世の記憶に頼ると、多分もうすぐ陛下がこっちに来る。それは間違いない。なんたって、今の今まで不穏な動きの元を調べに行ってたんだ。その時にモルギフの噂も聞いた。原作・魔剣編が始まるのに、準備も状況も万全だ。
「うはーーーーっ。生き返るぅ〜。血盟城の風呂もいいが、やっぱ、自分チの方が落ち着くーー。寛ぐっ……」
俺が大浴場でぐでーんとしていたら、先に入ってた同僚の奴らが纏わりついてきた。その内の一人は、俺の首をしっかりホールドしていて……絞まってるんだって!!
「やーん、ヴォルちゃん、久しぶりー」
「ますます可愛くなっちゃってぇ」
「グウェン閣下にそっくりなのに全く似てないのねー」
「とにかく可愛すぎるのぉ」
「「「もう食べちゃいたい」」」
あ、ちなみに言っておくと、“ヴォルちゃん”ってのは俺のこと。俺が任務中に使う偽名。女装時のみ。“ヴォルテール”の“ヴォル”であって、ヴォルフじゃないからあしからず。
「やっ……やめろっ!! 離せバカヂカラっ!! 絞まってるんだって!!」
口々に出る俺の賛辞? をスルーして、とにかく首を解放させる。うわぁ、マジ死ぬかと思った……。だが、こいつらに俺を解放する気はないらしい。未だに肩やら胸やら腰やらに手が絡んでいる。
「お前ら俺のどこがいーんだよっ! ちょっ……マジでやめろって! 触んなっ! キモイっ!!」
「まぁ、ヴォルちゃんったらツレなーい」
「見た目はこぉんなに可愛いのに……」
ブーブー言いながらも腕を離さない奴らに怒りを覚えていると、妙に不機嫌な、でも冷静を装ったハスキーボイスが降りかかる。
「ま、可愛いのは認めるけどぉ……。誰の許可を得てその子を撫で回しているのかしらっ?」
……一気に気温が下がった。湯に浸かっているはずなのに、体が芯から冷えていく感覚だ。俺に纏わりついていや奴らもそれを感じたのか、あっさりと手を引く。
「……あ、あら、グリ江ちゃん。ご機嫌麗しゅう」
「この子はグリ江のものよん。もし手を出したら……」
ヨザが俺を後ろから抱くような形で引き寄せる。グリ江ちゃんモードではあるが、表面だけだ。怖い。俺、何も悪いことしてねーのに、何でこんなことにっ! そそくさと逃げていった奴の背中を恨みを込めて睨む。
「ティアも……無防備すぎる」
俺の肩に顎を乗せ、耳元でポツリと呟くヨザの声に俺は軽く目を伏せる。
「……うん。ごめん、ヨザ」
俺の声に、俺を拘束する力がグッと強くなった。
とまぁ、そんな感じで甘々な時間を過ごしていた。任務帰りだったから、ヨザとこうやって話すのは久しぶりだったし、何より、俺がヨザと離れたくなかった。
「――!?」
一瞬、もの凄い魔力を感じた。不思議に思って首を捻ると大浴場に小さな渦が……。って、渦? ……あぁ、なるほど。
「ヨザ、陛下が来たみたいだ」
ヨザからは離れずに渦を指差す。その瞬間にポカンと人の形をしたものが浮いてきた。大浴場のルールをしっかり守って全裸で。仰向けの状態で浮いてるもんだから……見なかったことにしておこう、彼の名誉のためにも。
「あの大丈夫ですよ。俺ほら何にもしませんから。どっちかっていうと女の子には人畜無害のレッテル貼られてる奴だから。露出好きとか、そういうビョーキでもありませんし」
うわー、このヒト、自慢にもならないことをペラペラぶっちゃけてるよ。……何で?
俺は笑いを堪えながらも、湧いた疑問に首を傾げる。その視線の先の少年は、間違いなく双黒だ。
「……陛下?」
うわ、ホントに? マジで? 何でこんな所に? ヨザの声にはそんな意味がこもっていた。そしてその言葉に反応する同僚の奴ら。さっきの俺と同様にもみくちゃにされている。憐れ、陛下! だが、助けはしない。割って入っていけば、さっきと同じことが俺の身に起こるだろうし、やっぱ餌食になるのは眞魔国一の美形を誇るギュンターの役割だろう。
「……なるほど。確かにカワイーわな、お前らの言うとおり。だが……」
スッとヨザの目が眇められたのが分かった。声にも棘を感じる。俺やコンラッドがすんなりと陛下の護衛役にまわったのが気に食わないのだろう。ヨザはまだ陛下のこと、何も知らないから、疑うのも仕方ない。これから行くであろう魔剣探索での行動も、今後の彼の信頼を得るためには重要なことだとも思ってる。俺は……お前の気持ちを尊重したいしね。
「……死なせるなよ。じゃなきゃお前がいなくなってしまう。……俺を独りにしないでくれ」
ギュンターが同僚たちの餌食になっている間にコンラッドが陛下を救出する様子を見ながら、呟いた。
「ヨザが納得できる様に動くのは仕方ないと思ってるから。そこには目を瞑るから、俺からお前を奪う様な真似だけはしないでくれ」
自分で放った言葉に、自分で傷つく。……俺って超マヌケじゃん。思わず唇を噛み俯いてしまう。
「お前を独りにはさせない。絶対に。だからそんな顔すんな……」
ギュッ、と抱き寄せられる。背中から伝わる温もりに、涙が出そうになった。