白と黒

□Switch!
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 俺は走っていた。兄のいる執務室に、一秒でも早くたどり着く為に。今日の朝締切の、この書類を提出する為に。盛大に焦っていたし、急いでもいた。だからと言って、廊下を全力疾走していい訳ではない。それを思い知ったのは、誰かと曲がり角で正面衝突したからだ。

「っいってー……。ゴメン、大丈夫だっ……た?」

 ぶつけて痛む鼻を押さえながら相手に謝罪する。が、目の前にいたのは俺、だった。意味がわからない。

「いてて……。こっちこそ悪い。急いでて前見てなかっ……た?」

 目の前の俺もケツをさすりながら謝罪してきたが、俺を見てフリーズする。
 とりあえず目の前の俺に手を伸ばして引き起こし、散らばった書類を集める。

「っつーか何で俺が目の前に!? っ!? さてはドッペルゲンガー!? もう一人の俺と出会ってしまった俺は、もう一人の俺に乗っ取られて俺じゃなくなってしまうのか!?」

 俺の意志とは関係なくパニックを起こしている、目の前の俺。……ちょっと楽しい。

「っつーかその反応、ユーリでしょ、キミ」

 よく回る口調とパニックぶり、そして今俺が着ている黒の学ランで確信。

「俺はティアラだよ。フォンヴォルテール・ティアラ。そして今、俺の目の前にいるキミも俺。……中身だけ入れ替わっちゃったかな」

 お互いドッペルゲンガーじゃなくて良かったね、なんて呑気に笑っている場合じゃないけど。

「とりあえずこの書類、さっさと提出しないと」

「えっ!? あ、ちょ、ちょっと待ってよ、俺!!」

 とにかく書類の提出期限が迫っている。

「グリエ・ヨザックを執務室へ。俺……じゃない。ティアの一大事だと言って」

 通りすがりの兵士に指示を出す。この展開をヨザにも説明しておかないと、後が怖い。

「待てって、ティア! 俺の身体勝手に使うな!」

「使うも何も、執務室に向かってるだけだから。ほら、行くよ」

 俺は自分の手を取り、執務室まで彼の手を引いた。……ややこしい。何だこの珍体験。楽しい。

 執務室前でヨザと合流した。おはようございます陛下、なんて爽やかしいウソくさい笑顔。俺(ヨザから見ればユーリ)が見た目俺なユーリの手を引いているからだろう。何だか面白くて何の説明もせず笑顔で返答。ヨザのこめかみがピクリと反応した。そして、俺の後ろ、手を引いているユーリ(ヨザ的には俺)には素敵な笑顔を向ける。……それはちょっと妬ける。

「おはよ、ヨザック」

 ユーリが声をかけると、その素敵な笑顔が少しだけ曇る。……あれ? 気付いた?

「失礼しまーす」

 あ、ユーリが執務室入るとき“失礼します”なんて言わないっけ。
 後ろにいるヨザも、室内にいる兄貴とコンラッドにも凝視されてる。まぁ、後で説明するからいいけどね。

「諸々の説明はコレを受け取ってもらってからね」

 兄貴に期限の迫った書類を提出。これでミッションコンプリート。

「何故陛下がこの書類を? これはあの愚弟に任せていたはずだが?」

 兄貴の鋭い視線が俺(中身はユーリ)に向く。

「それは俺が俺だからだよ。あっちの俺はユーリ。俺たち、中身が入れ替わっちゃったみたい?」

***
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