地球から持ち込んだ“クリスマス”という行事が国民の間でも十分に浸透してきた。城下は陛下たちの指示なしでも赤やら緑やら白やら、ガラリとその雰囲気を変えた。今ではすっかり眞魔国風にアレンジされたクリスマスの風景となっている。
城下の中央広場の常緑樹は、可愛らしいオーナメントと煌く電球で着飾られている。いつだったか、俺がふざけて始めた七夕飾りが“眞魔国風”と銘打つ一因となっているのはここだけの話ということで。
国民は赤を基調とした服で身を包み、頭にはヤドリギを模したオーナメントを乗せている。サンタクロースに扮しているのと、ギュギュギュな先生の影響だろう。この辺りも眞魔国風だ。行き交う人々が皆、同じような格好をしているので、普段と変わらない服装の俺たちは微妙に浮いているかもしれない。
六花が舞い始めた。どうりで寒いはずだ。はぁ、とかじかむ指先に息を吹きかける。一瞬の温もりは、白い息と共にすぐに消えた。ホワイトクリスマスか。……いや、今日の雪はほのかにオレンジがかっているから、オレンジクリスマスか。ピンとこないな。
「積もるかな?」
空を見上げて俺が問う。隣にいる男も顔を上げる気配がした。
「どうだろうな」
「積もるといいな。この色の雪なら」
視線を降ろして隣にやる。彼は怪訝そうに眉をひそめた。
「だって想像してみろよ。一面オレンジなんだぜ? お前の、色。新雪の上にダイブしてゴロゴロしてオレンジ色にまみれて……んで、傍にいるはずのお前に“風邪引く”って怒られんの」
この男の反応が細かく予想出来る。想像するだけで幸せかもしれない、俺。
そんな妄想を熱弁していると、急に手を握られて驚いてしまう。思わず口をついていた妄想もストップだ。
「俺が隣にいるのに、妄想の俺と戯れるのはどうかと思わないか?」
「おぉ、悪い」
そりゃそうだ。隣にホンモノがいるんだから、妄想で楽しまずとも……。
「うん。やっぱオレンジ色より生ヨザだよな!」
握られていた手を解いて彼の腕に抱き付く。妄想の彼に、こんなぬくもりはない。
「街の外れ付近まで足延ばすか」
“巡回”という名のデート。延長を申し入れられて断る馬鹿がどこにいる?
「帰りにケーキ買っていこうぜ」
「残ってるかぁ?」
他愛ない会話をしながら、ゆっくりと歩き始める。ヨザの腕に絡みついたままで。
オレンジ色の雪と、カラフルなイルミネーション。
常緑樹に、願いを込めた短冊。
寒空の下の白い吐息に、ぬくもりを感じる恋人の存在。
全部が揃って、この幸せがある。
『Harmony of December』