白と黒

□Let's Advantage Festival Rd.2 !
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 血盟城の一室。豪華な革張りのソファーが二つ。片方にはこの国の代表・魔王陛下渋谷有利、猊下村田健、影武者役の星下天空星瞬。もう片方には、彼らの護衛であるウェラー卿コンラートとフォンヴォルテール卿ティアラが座っている。
 その間にあるローテーブルには、紅茶や茶菓子の他、散らばった数十枚の紙と数冊の本。執務の合間の休憩時間なのか、各々が穏やかに談笑している。

「今年も俺らは浴衣に甚平だろ? 目印とかってどうすんの?」

 散らばった紙の内数枚を手に取って、星瞬が問う。

「去年は和服自体が目印だったけど……今年はそうはいかないだろうしね」

「だよなー。昨日城下に降りた時、既に浴衣とか甚平っぽいの着たヒト、結構いたもん。……あくまで“っぽい”だけど」

「何か考えてんの?」

 健、有利の共感を得て、再び星瞬が問う。双黒三人の視線は、今話題に上がっている祭の発案者で、日本の衣服を導入させたティアラへと注がれた。それを受けた本人は得意げに笑う。

「もちろん、抜かりはない」

 笑顔だけでなく、その言葉からも自信が感じられる。彼はテーブルに置いてあった一冊の本を手に取り、その表紙を正面にいる三人に向けた。

「今年は羽織を作って貰ってる。有利好みの鮮やかな浅葱色。袖には白く染め抜いただんだら!」

「それって新選組のパク……」

「皆まで言うな! この本はとても“参考”になったよ、星瞬くん。たまには毒女シリーズ以外の本も読んでみるもんだな」

 ティアラは手にしていた本――表紙には袴姿の三人の男が、浅葱色の羽織を着て刀を構えている姿が描かれている――をテーブルに戻した。その表紙に視線を落とした有利が呟く。

「新選組のコスプレかぁ。刀差して“御用改めである!”って街歩いたら完璧じゃん」

「渋谷にはモルギフがいるじゃないか。彼も外へ出たがっているし、この際モルギフで満足しちゃいなよ」

 楽しそうに話すのは有利と健だけで、星瞬は目を眇めたが、言いたかった言葉は飲み込んだ。名付け親はともかく、祭の主役でもある親友と自分の恋人が喜んでるのだからいいかと思い直したのだ。彼は軽くため息をついて、持っていた紙の内一枚を示す。

「これ、ティアの浴衣デザインだろ? これに新選組の羽織っておかしくないか?」

 星瞬が示した紙を、一同が覗き込む。暗色を基調とした、フリルの多い浴衣ドレスのデザイン画。隅には、前魔王ツェリの署名が入っている。

「なんだ、そんなことを心配してたのか」

 ゆっくりとソファーに体重を預け、ふわりと笑う。

「俺もさすがに、フリフリに羽織は……って思うから、着るつもりはないよ。当日は“目印”を着たお前らの護衛だからな。問題ない」

「僕たちは強制なんだ……」

 引きつるように笑う健。着る気がなかったからあんなに乗り気だったのか、とティアラと星瞬が同時に息をついた。

「ティアが女性物を着るのはいいとして……何でこんなフワフワドレス風なんだ?」

「今回は動きやすさを重視してセパレートタイプにするつもりだったんだが……」

「それが母上にバレて、こんな風になった、と?」

 何かを思い出したのか、眉間にしわを寄せるティアラ。それに気付いた、今まで傍観を決め込んでいたコンラッドが、言葉を続けた。

「うん、まぁ、そんなとこ」

 肯定で気を取り直し、再び自信の溢れる笑顔を作る。

「でも俺には絶対似合うから、それこそ問題ない」

「そうだろうけど……」

 ティアラの発言に呆れる面々。
 彼らに気付かれない様笑顔は残したままだが、ティアラの目は何かを考えるように鋭くなった。

「……」

 コンラッドだけがそれに気付いたが、特に口にすることもなく、気付かない振りをしていた。


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