「“はろうぃんぱーてぃー”、ですか」
上司に呼び出しを食らった執務室で、聞き慣れない単語に首を傾げる。
「全く、この忙しいのに城中行事を増やすとはやってくれる。お前にはその城中警備を任せたい」
目の前の上司はいつも以上に眉間にシワを寄せて告げる。俺に指示を出しながらも書類を片して行くグウェンダル閣下には脱帽だ。
「はい、お任せ下さい。ところで……“はろうぃん”って何ですか?」
「チキュウの行事らしい。詳しくは知らん。陛下かコンラートにでも聞け」
あっさりばっさり。
陛下が城中行事を増やしたことで、この上司の忙しさが倍以上になったのは火を見るよりも明らか。俺はこれ以上閣下の邪魔にならないように、軽く挨拶をして退室した。
閣下に言われるまで気付かなかったが、俄かに城中が活気付いている。これが“はろうぃんぱーてぃー”なるもののせいなんだろう。どんな行事であれ、みんなでパーッと騒いで楽しめるお祭りは大歓迎だ。その分警備も大変になるが、お祭りを楽しんでいる人の顔を見れば全て吹っ飛んでしまう。そういう意味で陛下が導入されるチキュウの行事は期待大、だ。
「ティア! ティアも参加するよな? ハロウィンパーティー!」
「今月の末に行われるそうですね。その“はろうぃん”って何なのですか?」
ニマニマしながらそんなことを思っていると、隊長を連れた陛下が走り寄ってきた。とても楽しそうな表情に思わずつられてしまう。
「本来は死者が帰ってくるから迎えるっていうイベントだっけ? 何か違う気もするけどまぁいいか。で、死者に混じって悪霊とかも来るから仮装して追い出すの! そんでお菓子をくれなきゃイタズラするんだ」
正直何を言っているのかわからない。それでも一生懸命に伝えようとしてくれる陛下が可愛く思えた。
「とりあえず、仮装してパーティーを楽しめばいいよ。俺からのアドバイス。持てるだけアメ玉常備しておけ」
隊長の助言さえも意味が分からない。いや、意味は分かるが、意図がわからない。
だが、嫌な予感はするのでアメ玉の準備はしておこう。強くそう思った。
* * * * *
パーティー当日。俺は警備の全体管理、ということで会場中に散らばる部下たちの元を回っていた。
今回は初めての“はろうぃんぱーてぃー”ということもあり、なるべくみんなが楽しめるように、兵士一丸となって完全交代制にした。交代も円滑に行くようにと、いつもの軍服ではなく、参加者と同じように仮装している。かくいう俺も、ヨザに準備されていたロメロの衣装だ。正直かなり動きにくい(もちろん、相手役のアルジェントはヨザだ)。このヨザ特性のロメロ服、親切にもポケットが多く、アメ玉が大量に入っていた。自分で準備していた分のアメ玉も何とか詰め込んで、部下からの“異常なし”の報告を聞いていた。
「“とりっく おあ とりーと?”」
その合間合間に投げかけられる魔法の呪文。意味が分からないながらも、アメを渡せばいい、という対処法を陛下と隊長から聞いていたので一人に一つずつ、アメ玉を渡していた。
「ティア!! うわっ、すげー格好いい! 王子様じゃん! もしかして、あのヨザックのお姫様スタイルと対なの?」
パーティーも中盤に差し掛かったころ、グウェンダル閣下特性のクマ耳帽子をかぶった陛下が明るい声をかけてくれた。
「お褒めに預かり光栄です、陛下。陛下もとても可愛らしくていらっしゃる。ヴォルフラム閣下とグレタ姫とお揃いのクマハチ、ですね?」
さすがは仲良し親子だ。
「そういうティアはヨザと一緒にロメロとアルジェントか。俺としては逆を見たかったけど……」
「俺があんなヒラヒラフワフワドレスを着るかっての。これでも十分動きにくいのに」
隊長の言葉にブツブツ反抗していると、陛下が思い出したように告げる。
「そうだ、ティア!! Trick or Treat?」
「……じゃ俺からも……。Trick or Treat?」
陛下に続いて隊長もあの呪文を唱えた。
とりあえず俺は二人にアメ玉を一つずつ渡して問う。
「ずっと気になってたんだ。その呪文は何な訳?」
答えてくれたのは陛下だった。
「Trick or Treat? 訳すと“お菓子をくれなきゃイタズラするぞ”だっけ? 地球ではハロウィンの夜、仮装した子供たちが近所の家にお菓子を貰い歩くんだ」
「だから“Trick oe Treat?”と言われてもお菓子を渡さないと何をされても仕方ない、という訳」
「なるほど。だから大量にアメ玉持たせた訳だ」
「うん。ティアは目立つし、人気者だし、ヨザックもいるし、イタズラの対象にはさせられないからね!!」
陛下の笑顔に一瞬胸がときめいてしまった。危ない。
「ありがと、ユーリ。じゃ俺はそろそろ仕事に戻るよ。ユーリも人気者なんだから、アメ玉切らさないように気をつけろよ?」
そう告げて、止まっていた部下巡りを再開した。
* * * * *