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「やっぱりお前が来たか。大層な身分になったのに悪いな、ラスティア隊長」
森やら谷やら沼やらを抜けてようやく辿り着いた目的地。そこには遠くからでもかなり目立つ、オレンジ髪の男が笑顔で迎えてくれた。
「……そうなるように仕向けたのはお前だろ、ヨザ。でもさぁ、ここに来るなら、あんな獣も通らないような荒路使わなくても来れたじゃねーか」
ここはシマロン領カロリア自治区ギルビット港。眞魔国から陸路と海路を使えばこんなに体力を使わずとも、そう変わらない時間差で着いたはずだ。
「……白鳩は海を渡らないからな。済んだことは諦めて、一服がてら飯にしようぜ?」
ヨザックが言った瞬間、計ったかのように俺のお腹がギューと鳴く。お陰でヨザックに笑われた挙句、子ども扱いだ。悔しいけど、それ以上に恥ずかしかった。
「――……引き続き調査せよ、だってさ。閣下からは以上。そっちは?」
ヨザックに連れられた店で、この辺りの郷土料理をつつきながらグウェンダル閣下からの伝言を伝えた。ヨザは安い酒を一気に煽って大きく伸びをした。
「了解。こっちは特に動きなし。新たに報告するような情報もない」
つまり、現状ではお手上げ、ということだ。情報が足りない。
「で? ヨザは今どうしてる訳? ってか俺はどうすればいいの?」
酒場とか食堂とか、人の集まる場所を拠点とするのが普通だろう。ま、ヨザのことだから既に潜入してるかもしれないが。
「港通りの食堂で雇ってもらってる。結構繁盛してて、いい感じに人も噂も集まる所だ。適度に忙しいから、いくらティアちゃんが料理音痴だとしても役には立つと思うぜ?」
まぁ、確かに、俺は自分で茶も淹れれないくらいの料理音痴だが……改めて言われると何かムカつく。
「どーせ俺は血盟城でも調理場出禁にされてますよーだ」
「まぁ、そうスネんな。俺は可愛い格好のティアが見れて嬉しいんだから」
ムニー、と俺の頬を引っ張るヨザは本当に嬉しそうに笑う。俺の可愛い格好とやらよりも、今のヨザの顔の方が断然可愛い。
「……ん? 俺の可愛い格好?」
ヨザの手をピシリと跳ね除け首を傾げる。いや、だって意味わかんないだろ?
「……あのなぁ、ティアちゃん。本気でわかってないようだから説明しとくが……ここは若い男が兵役に取られてる。いつもの格好じゃかえって目立つの。わかる?」
あー、何かそんな話も聞いた気がする。開戦に向けて少年と呼ばれる年頃の子供までが刈りだされてるって……。
「うへー。だから“可愛い格好”? ただ単にヨザの趣味だろー」
これではっきりした。ヨザは助っ人に俺を指名するように仕向けた報告書に兵役か女装のことを書いたんだ。一応、ヨザが動きやすい人選でもあるが、絶対この辺を強調してたんだ。
「……動きやすいのにしろよ」
もう女の格好をすることからは逃れられないので(状況がそれを許さない)、その事実は仕方なく受け入れる。が、ヨザに任せておくとろくな衣装が出てこないのが目に見えているので(ここぞとばかりに着飾られる)釘を刺しておく。ヨザは拗ねた風に舌打ちをするが、それでも楽しそうだ。
あー、早くこの任務終わらないかな。
合流して間もなく、俺はグウェン閣下から受けた任を後悔していた。