オレンジ色

□#3
1ページ/11ページ


#3 魔笛編


「第二隊隊長アスナディック・レディオと……えっと?」

「俺役職ないから名前だけでいいんだよ」

「無いことはないだろ、お前が」

「あえて言やぁ、グウェンダル閣下の側近? ……でも、役職じゃねぇし……ユキシロって言えばわかるんだから、それでいいんだよ」

 ノックと共に始まったレディオと俺のテンポのいい話が一段落つくと、“入れ”と短く返事があった。

「「失礼します」」

 俺たちがそっと扉を開け中に入ると、そこにはグウェンダル閣下の他にオレンジ頭……ヨザックがいた。

「ヨザ! 帰ってたんだ。お帰り」

「……ティア、男連れて浮気報告か?」

 普通そこは“ただいま”とか返すとこじゃねーの? いや、その前に浮気……?
 俺は頭上にハテナマークをいっぱい浮かべて問う。

「……は? 浮気? 誰が? 誰と? いつ? 何処で?」

「ティアが俺と今ここで……かな?」

 俺の問いに答えたのはレディオだった。
 あ、こいつは俺の幼なじみ。昔は喧嘩ばっかしてたけど、今は飲み友達だ。さっきまでコイツと昔話をつまみに、酒を呑んでたんだけど、グウェンダル閣下がお呼びだということで早々に切り上げて今に至る。

「なんで俺とレディオが?」

 状況を把握できてないのは俺だけのようで、ヨザックとレディオは“ニヤニヤ”という効果音がつきそうな笑顔を張り付けている。
 グウェンダル閣下はいつものように眉間のシワを深くした表情だが……。

「そんなに仲よさ気にいる所を見せられたら誰だって……しかも2人共私服ときたもんだ。今までどこにいた?」

 ヨザックは俺の両頬を左右に引っ張り問う。
 俺はその痛みに涙目になりながら答える。

「ひはふほほひは」

「近くの飲み屋ですよ、ヨザックさん。あんま、俺らの時間を邪魔しないで下さいね」

 俺の言葉を訳してくれたのはいいが、邪魔ってなんだよ、邪魔って。
 俺はヨザックの手から何とか逃れ、ヨザックとレディオに食いかかる。

「ヨザ! そんなに俺が信じられないのか!? コイツとはただの幼なじみで、飲み友達! 久しぶりに時間が合ったから飲みに行ってただけだ。非番だったんだから、私服でもおかしくないだろ。んで、レディオ! お前もヨザを煽るな! お前は俺で遊んでるつもりだろうが、遊ばれてる俺は不愉快以外なんでもねぇ! もっかい流してやろうか?次は帰って来れないよう地の果てまで……」

 俺が一息で言い切ると、ヨザックもレディオも口をつぐむ。
その静寂を地を揺さぶるような重低音で破ったのは、ずっと静観していたグウェンダル閣下だった。

「本題に入ってもいいか、グリエ・アスナディック・ユキシロ」

「あぁ、悪かった」

 俺はそう返すと、グウェンダル閣下は眉間に手を当てながら話を進める。







「コナンシア・スヴェレラで魔王を名乗る者が捕らえられ、処刑の日まで決まったそうだ。こちらとしてはソイツがどうなろうと構わないのだが、何でも魔笛を所持していたらしい。私はそれを確かめにスヴェレラへ向かう。その同行をお前達に頼みたい」

「ユーリがこっちに来てんの?」

 グウェンダル閣下の言葉に俺は疑問を口に出した。答えたのはヨザックだった。

「今ンとこ、“魔笛を所持していた”という情報しかない。つまり、坊ちゃんだという確証はない。まぁ、こっちに呼んでないから、魔笛だけで魔王と判断されたと考えた方が自然だな」

「その情報を拾ってきたのはヨザックさんなんですか?」

 レディオの問いにグウェンダル閣下が頷くことで答える。

「やっぱり、俺らの時間を邪魔したのはヨザックさんなんですね……」

 レディオは舌打ち混じりでそう告げると、ヨザックの瞳がすっと細められた。

 ヤバい! この空気、とてつもなく、ヤバい!
 俺に火の粉が降りかかる前に話を変えねぇと……。

「で、俺らはどうすればいい訳? ヨザも一緒なのか?」

「いや、グリエには引き続き情報収集をしてもらう。ティア……ユキシロとアスナディックには隊を引率してほしい」

「ティアでいいから……。で、引率? 第2隊を連れて行くんならレディオでいいんじゃねぇの?」

 隊を引率って……隊長であるレディオの仕事だろ。

「第2隊ではなく、なるべく見目が人間に近い者たちで編成するつもりだ。人間の土地に行くのだから少しでも目立たないようにしたい」

 ……グウェンがいるだけで十分目立つと思うのは俺だけだろうか?
そんな思いはなんとか押し止め、俺は了承した。

「わかった、責任者はレディオで。俺は補佐に回るから」

「待てよ、ティア。俺が補佐するからお前が……」

 レディオは、俺の発言に慌てて訂正を入れようとするが、瞳をすがめたままのヨザックがレディオの言葉を遮る。

「レディオ、ティアが素直に聞く奴じゃナイのは知ってるだろ。諦めてティアに従っとけ。ホントに流されんぞ?」

「うっ……わかりましたよっ! で、閣下、出立の予定は?」

 流される、と聞いて怯んだレディオは青くなりながら肯定をかえし、すぐさま、真剣な表情に戻してからグウェンダル閣下に問う。

「今夜ここを発ち、一度カーベルニコフに寄る。そこからスヴレラへ向かう。お前たちもそのつもりで……」

「「御意」」

グウェンダル閣下の言葉に俺達は短く返事をして部屋を出た。



次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ