オレンジ色

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#2 魔剣編


「お帰り、ヨザ。収穫あったか?」

 ユーリが地球へ帰った後すぐに、諜報活動に出向いていたヨザックを見かけ、俺は声をかけた。

「お? ティアじゃねーか。お前もこっちに来てたんだな」

 ヨザックは俺に気付くと足を止め、俺が近くに来るのを待っていた。だが、俺の質問には答えない。

「まぁ、俺はグウェンダル閣下の隊に属してるんでね。閣下がヴォルテール城に戻って来てるんだ、俺がここにいてもおかしくはないだろ……。で、どうだったんだ?」

 俺は適当に返答してからもう一度尋ねる。

「俺を誰だと思ってんだよ。情報バッチリ持って帰ってきたぜ」

 ヨザックは自信あり気な微笑みを俺に向ける。

「さっすが、グウェンダル閣下の指名率ナンバーワンのお庭番だな」

「まぁな。土産話は後でもいいか? 風呂入りてーんだ」

 その表情に、俺は皮肉混じりに褒めてやる。だが、ヨザックには通用しなかったようだ。受け流しやがった。
 ……何かムカつく。

「おぅ。……っつーか、そんなもんいらねーけど……。ゆっくりして来い」

 俺はため息とともにヨザックを見やる。

「ま、ティアちゃんったら、つれないのね」

 俺の頭をポンポンと撫でながら、ヨザックはプゥっと頬を膨らませる。
 ……いくらなんでも、そのナリでその仕草はナイだろ……。
 俺はやっぱりため息とともに口を開く。

「いきなりグリ江ちゃんになるなよ、引くだろ……」

 そう言って俺たちは笑い合う。これが嵐の前の静けさだとは知るはずもなく──……。







「我らが魔王陛下が、人間との戦争を避けるため、ご自身で、魔剣モルギフを手に入れるらしい。目立たぬよう、護衛はコンラート1人に行かせるが、非常時の支援をグリエとユキシロに任せたい。アレでも一応はこの国の王だ。何かあっては困るからな」

 グウェンダル閣下が、重いため息とともに、陛下……ユーリを皮肉りながら、俺達に告げた。

「わかりました」

 俺はあっさりと返事を返す。だが、ヨザックは閣下と同様に眉間にシワを寄せたまま黙っている。

「ヨザ?」

 俺は、いつもなら忠実に上司に従うヨザックが黙っていることが気になり、声をかける。すると、ヨザックが真剣な顔つきで口を開く。

「俺はまだ、魔王陛下を信じちゃいません。ちょ〜っと試させてもらっても構いませんよね?」

「あぁ、自由にするがいい。私とて、まだアレを王と認めたわけではないのだからな」

 ……ヨザックの気持ちはわからなくもない。これからの覚悟をするためにもユーリの人柄を知るのは重要だろう。俺も完全に信じたわけじゃねーし……。
 でも、ユーリなら大丈夫だと思う。あの腹黒閣下が信頼をおいている。………だから俺も信用できるんじゃないかとは思うんだがな……。

「ティア」

 閣下の部屋を出た後、不意にヨザックに声をかけられる。

「ん? ……まさか、行かねーとか言わねーだろうな?」

 真剣な顔を向けるヨザックに俺は尋ねた。

「この任務で俺は新魔王陛下を見極めるつもりだ。それで、お前や隊長に迷惑がかかるかもしれないが……」

「陛下を危険なメに合わせようとしなければ、俺は構わねぇよ。……隊長はどう言うか知らねーが……。ヨザの気持ちはわかってるつもりだからな。それに………迷惑なんて、いまさらだろ」

 ヨザックの言葉を遮り、俺が言う。ヨザックは一度目を伏せると、いつもの表情に戻っていた。

「“いまさら”とはどういう意味だ?」

「しおらしいヨザはキモいだけだろ……明日雨降んじゃねーの?」

 俺が軽い口調で答えると、ヨザックは俺の両頬を引っ張る。

「そんなことを言うのはこの口かぁ?」

 よかった。いつものヨザックだ。
 俺はそれに安心し、大人しくされるがままになっていた。







……わけもなく!

「痛ぇんだよ! 離しやがれっ、馬鹿力っ」

 コイツ加減ってもんを知らねーのか? 慰めてやったのに、恩を仇で返すとは……。
 俺は涙目になりながら、必死に抵抗していると、何とか聞こえる程度の声でヨザックが言葉を紡ぎ、手を離す。

「……サンキュ」

 ──ッッ!? っとに素直じゃね〜なぁ……。
 不覚にも俺はその一言で痛みなんか吹っ飛んでしまった。



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