#1 自由業編
「もうそろそろだよな〜」
俺が呟く。
「何が?」
興味のなさそうな返事はヨザックのもの。
「新魔王陛下が来んのが」
律義にも答えてやる。
「あー、今隊長が迎えに行ってるヤツか」
「どんなお方なのかね、新王陛下ってのは」
「さぁな。どんな奴でも俺らは王に従うしかねぇ」
「まぁな……。でも、隊長が大切にしてる存在らしいぜ。俺は期待してるんだがな」
「だからティアは甘いんだよ。人を信じすぎだ」
「ヨザは信じなすぎだ」
そう言って俺達は笑った。
いつも通りの会話、いつもの様な雰囲気。俺はこんな時間がすごく好きだった。
「んじゃ、ちょっくら行ってくらぁ」
ヨザックがよいしょと腰をあげる。
「気をつけろよ」
俺が社交辞令で述べると
「あら、心配してくれるの? グリ江うーれーしーい」
と腰をくねらせ抱きついてくる。
俺の気持ちわかってやってんのかよ……。
──俺はヨザックが好きだ。友人として、とかでなく、これが恋とかいうヤツなんだろう。
でも気持ちは伝えてないし、伝えるつもりもない。今の関係を壊したくないから、“友人”でいい。これは俺のわがままだけどな。
俺は首に腕を回したヨザックの背中をポンポンと叩く。
「ヨザは無茶をしすぎるからな。いつか痛いメみるぞ」
そう言ってやったら、ヨザックは腕をほどき、俺に目線を合わせる。
「大丈夫。お前がここにいる限り、何があっても戻る……」
──ッッ!? そんなこと真顔で言うなっつの。からかわれてんのわかってんのに、顔が紅くなっていく。
「……なーんてね。あら、ティアちゃん、顔真っ赤よぉん? もしかして、グリ江にほれた?」
そんなことを言いながらケラケラ笑ってるヨザックに足技を決めてやった。
「そんなに余裕があるならさっさと行って終わらしてこい」
俺は涙目になってるヨザックを置いて歩き出す。そんな俺の後ろ姿にヨザックが叫ぶ。
「明日には戻るから、一杯行こうぜ〜。んじゃなー」
そう行って俺とは逆方向に歩き出す。
おっし!明日はヨザックと晩ご飯だぁー!!
その日の昼に、新魔王陛下が血盟城に到着した。