丸魔学園
□X'mas
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「なぁ、新月。知ってるか?」
暖かい部屋で、温かいココアを飲みながら、いつものくつろぎスペースであるソファーに身を沈めて読書に耽っていた時、同じく読書途中であったヨザックが急に話を切り出した。
私は文字を追っていた視線を、真横に座るヨザックに向ける。すぐに澄んだ青い瞳とかち合う。
「サンタクロース」
「イヴの日にプレゼントを配る、あのサンタさん?」
確かにクリスマスは近いし、その手の話題があがってもおかしくはないが、それがヨザの口からだと変な感じだ。ヨザにはサンタな話をするイメージがない。……いや、全くの偏見だけど。
「そう、そのサンタクロース。トナカイの引くソリに乗った赤服ヒゲ親父が世界中に不法侵入を繰り返すってアレ」
「元も子もない言い方やめなよ。夢を見てる子供だっているんだからさ」
ぞんざいな表現をするヨザックを苦笑いで諌めた。
「で? そのサンタさんがどうしたの?」
大げさに拗ねてみせるヨザックの髪に指を通して、続きを促す。
「サンタクロースのモデルになった男がいてな。そいつの有名な逸話らしいんだが」
そう前置いてから、ヨザックが話しだした。
「一人の貧しい男がいた。その男には愛する娘がいて、その娘をどうしても嫁がせたい相手もいた。だが、男は貧しいから持参金がなく、どうしようもない状態だった。それを知ったあるお人好しが、その男の家の煙突から金塊を投げ入れた。金塊はちょうど暖炉付近にぶら下がっていた靴下の中にホールインワン。それを見つけた男はその金塊を持たせて嫁がせた、と」
「……あぁ、それで煙突から入って靴下に入れるんだ。煙突はともかく、何で靴下なんだろうとは思ってたんだよね」
しかし夢のない話だ。いや、一応は良い話なのかも知れないが、私にとってはヨザの言うように“お人好し”だ。
サンタクロースって本来良い子へプレゼントを贈るものだ(という思い込みかも知れないが)。それなのに、サンタもどきが贈ったのは“父親”が欲しがっていた金銭。結果的に娘の結婚相手が付いて来た、という印象だ。
「そもそも、その娘さんに結婚する意志あったのかな? そりゃさ、相手は父親にとっては悪い人じゃなかったのかも知れないけどさー」
「娘たっての願いだったのかも知れねーだろ? お前こそ、身も蓋もないこと言うな」
だってー、と抗議を続けようとしたけど、両頬をムニーと左右に引っ張られ阻止された。
「そんなことはどうでもいいが……持参金がなきゃ嫁げないなんて不便な世の中だったんだな、とは思うぜ」
そして私の頬から手を離し、わしゃわしゃと髪をかき混ぜた。
「相手が新月なら持参金なんてなくてもいつでも貰ってやる……というか、お前は俺のものだから貰う、という表現はおかしいが……とにかく、持参金なんていらない。反対に、新月じゃなかったらどんなに金積まれてもお断りだ」
新月だけが俺の相手だからな、と言われて何も感じないほど鈍感ではない。恥ずかしさで視線は彷徨うし、顔は火照るし、何も言えないしで、まるで不審者だ。端から見れば怪しいことこの上ない。それでも、なけなしの理性と勇気を総動員させる。
「……私もヨザックじゃなきゃヤだ」
羞恥を紛らわす様にヨザックの胸に顔をうずめて両手を背中に回す。腕にギュッと力を入れると、ヨザックがわずかに微笑むのが分かった。
「今年のクリスマスはあいつら抜きで過ごしたい」
耳元での囁きに、私も笑みがこぼれる。
毎年、有利や健ちゃん、コンラッド先生が一緒だったからだろう。そんなワイワイコースも楽しいが、たまには甘いデートな一日でもいいかも知れない。
「エスコート、お願いします。マイ プリンス」
顔を上げて、彼の青い瞳を覗き込む。ヨザからの返事は甘いキスで返された。
今年はどんなクリスマスになるのか。クリスマスまであと 日――。