丸魔学園

□X'mas
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『すっごーい。キレー……』

クリスマスイブの今日、私たちはとある遊園地に来た。今回ばかりはヨザと2人きり、もちろん、学校なんて気にしなくてもいいように、地方まで出てきた。
目の前に広がる豪華なイルミネーションに、私の瞳もキラキラと輝くのがわかった。

「あぁ、綺麗だ」

そう呟くヨザの目が私を見ていることには全く気付かなかった。
ただ、手の平から伝わる温もりがとても恋しくて、つい握る手に力を込めてしまう。ヨザックもそれに応えて握り返してくれた。
どれくらいそうしていただろうか。煌くイルミネーションと流れる人波を眺めているとメールの着信音が響いた。私とヨザの携帯どちらも、だ。私たちは1度目を合わせてから、それぞれのメールを確認した。


Merry X’mas!
素敵な聖夜を過ごしているかな?
そんな恋人たちに少しでも楽しんでもらえるよう、プレゼントを用意したよ。
これから30分以内に中央の噴水広場まで来てね。


差出人は不明。アドレスはフリーのものだった。

『健ちゃん、かな?いや、でもまさかこーんな地方まで追っかけて来たりしないか』

すぐに浮かんだ親友の顔を一拍置いてから打ち消す。
“楽しんでおいで”と送り出されたのだから邪魔はしない……だろう。いくら健ちゃんでも。

「いや、多分そうだろ。そして絶対コンラッドも一枚噛んでるぞ」

ヨザックは携帯を見せながら呟く。そのメールには、私のところにきた本文にもう1行、“もし来なかったり、遅れるようなことがあれば君たちの身に猛吹雪が吹き荒れるからね”、と。

「俺らの身に起こる猛吹雪なんてアイツの寒いシャレしかねーだろ。………ったく仕方ねーな。行くか」

大きくため息をついて、片方の手でガシガシと頭をかく。そんな姿が可愛く思えて、つい笑ってしまった。

『……そうだね。まだ2人で過ごす時間は名残惜しいけど……みんなとも過ごしたいし、迎えに行ってあげようか』

ね?と首を傾げれば、チュ、と頬に口付けられた。

「アイツらがいると恋人らしいこと出来ないからな」

と綺麗な笑顔を向けられる。その不意打ちの表情がとても妖艶で、目が離せなかった。

+ + + + + + + 

『あ、いたっ!けーんちゃーん!ゆーりー!コンラッドせんせー!!』

時間ぴったり30分で噴水広場にたどり着くと、すぐに目当ての人物が見つかった。

「こんばんは、新月、グリエ先生。時間ぴったりだね」
「俺は2人で過ごさせてやれーって言ったのに、コイツ聞く耳持たなくてさ。悪かったな」
「でも俺たちも新月と過ごしたかったんだ。迷惑だった?」
「あぁ、大迷惑だ」

上から健ちゃん、有利、コンラッド先生、ヨザ。
ヨザはああ言ってるけど、本気でそう思ってたら絶対この場に来ない。それはこの場にいるみんなが知っていた。

『2人で過ごすのも良いけど、みんなと過ごすのも良いよね。ちゃんとロマンチックな時間は楽しめたし、みんなとも会えた。すごく贅沢なクリスマスだよね』

私って幸せ者だねーと笑うと、ヨザも健ちゃんも有利もコンラッド先生も、暖かい笑顔を向けてくれた。

+ + + + + + + 

「遊園地といえばアトラクションだよな」

という有利の言葉により、私たちは絶叫マシンを中心に乗り回していた。
この遊園地の目玉であるコースターに1時間ほど並んで絶叫した後、降りた途端にテンションの異様に高い従業員さんたちに呼び止められた。

「おめでとーございまーす!当アトラクション100万人目のお客様です。こちらへどーぞー」

どーぞ、と指し示されたのは丸い簡易ステージ。各メディア関係者がカメラやマイクを持って待機している。

『えっと……拒否権、は?』

グイグイと腕を引く従業員さんの顔が強張った。記念すべき100万人目が拒否するなんて考えもしなかったのだろう。
でも、万が一、メディアにさらされて、私たちを知る人にヨザとのことがバレたら……?
そんな危険があるのに、のこのこと出て行くわけにはいかない。地方まで来た意味ないじゃん!!

「本当、運がいいんだか、悪いんだか。ほら、渋谷、行くよ」

私の考えを察したのか、健ちゃんが有利を連れて歩き出す。

「ちょっと村田!?」
「2人の関係をさらす訳にはいかないだろ?だからここは僕と渋谷で行って来るから、新月は心配しなくて良いよ」

とまどう有利に足を止め説明する健ちゃんは、言葉の最後には私に向かってニッコリと笑ってくれた。

「あ、そっか。んじゃ新月、あとは任せとけ」
「終わったら連絡入れるから、ゆっくりしときなよ」
『ん、ありがと、2人とも』
「コンラッド、お前は2人に付いてろよ。一応コイツら未成年、だからな」
「あぁ、わかってる」

ヨザはコンラッド先生と短く言葉を交わすと、ポンポンと頭を撫でてくれた。

「じゃ、お姫様、行きましょうか」

そう言って差し出された手をとり、笑顔を返す。

『ふふ、王子様みたいね』

もちろん、元々私の王子様、なんだけど。
再び訪れた2人の時間に頬を緩ませて、人波へと進んでいった。


21st.Dec.2008

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