キラ星

□第2片 透明の日々の欠片
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 鳳珠に引き取られてすぐに、僕は新しい姓を貰った。日本で使っていた姓は彩雲国にはそぐわないから、という理由で。まぁ、当然だと思う。

 そして最初に提示されたのは鳳珠の黄姓。義理とはいえ親子なのだから、と告げられたが、彩八家の名前を貰うのにはかなりの抵抗があった。鳳珠の養子として世話になって、さらに黄姓まで貰うなんて、僕には出来なかった。

 理由を告げて辞退した翌日、黎深が“煌”という姓を提示してくれた。黄家(とついでに紅家)に通じる音・コウで、王家を表す“皇[スメラギ]”が入った字。黎深が夜通し辞書と睨めっこして(一人で)考えてくれたらしい。鳳珠にも“これには拒否する理由はないだろう”と言われて、そしてその言葉ももっともなので、ありがたく受け取った。煌星瞬。新しい名前とともに、僕の新しい生活が始まった。







 それから数年、鳳珠が出仕して邸を空けている間の暇つぶしに、書庫にある本を片っ端から読み漁っていた。時々は黎深の邸にお邪魔して、黎深の養い子である絳攸と一緒に勉強もしていた(教えるよりも教わることの方が多かったのが事実だ。絳攸の思考力には頭が下がる)。

 そんな勉強漬けな日々を(好んで)過ごしていたのには僕なりの理由があった。

 まず一つは、毎日夜遅くに(僕に遠慮して書簡を大量に抱えて)帰宅する鳳珠の力になりたかった為。僕が勉強することで手伝えることが少しでも出来るのなら、そうしたいと思った。

 そしてもう一つ。無謀だと知りつつも官吏になりたかった。官吏になれたなら、邸だけでなく外朝でも鳳珠の手伝いが出来るし、何よりも無茶しすぎる鳳珠を諌めることが出来る。そして最大の理由。朝廷には第六公子劉輝様がいる。もう僕は公主ではないけども、出来るだけ近くで、出来る限りの力で、彼の支えとなりたかった。慕っていた清苑公子も、可愛がっていた煌輝公主もいなくなった宮で、彼の孤独を感じられずにはいられなかった。


「国試を受けたい」

 理由とともにその思いを鳳珠と、黎深にぶつけた。確実に猛反対されることは分かっていたが、それでも僕は、自分の意志の下、食い下がる訳にはいかなかった。

「まずは侍僮として働いてみろ。それからでも遅くはないだろう?」

 僕の必死の説得の後、鳳珠が重い溜息と共にそう告げた。


 一年程侍僮として戸部の手伝いをしていた。鳳珠やゆーちゃん(柚梨サンのことを僕はそう呼んでいる)、そして何故か黎深にフォローをされつつも、“本気”を知ってもらう為、僕は必死だった。女である僕が、男ばかりの世界に身を置くこと、それはそんなに大したことではなかった。鳳珠たちのフォローがあったからこそなのだろうが、そんなことに気を取られる間があるのなら少しでも多くの書類を片付けたい(正確には片付けてもらいたい)と思った。

 鳳珠も容赦なく僕を使ってくれるのでとても嬉しかった。僕の“本気”をちゃんと見てもらえたと思う。そして僕の熱意を認めてくれた(むしろ呆れた?)鳳珠と黎深は国試受験を許してくれ、絳攸と同年、探花及第を果たした(やっぱり絳攸には勝てなかった。その上藍家の四男・楸瑛にまで負けてしまったのはかなり悔しい。しかもあっさりと文官を辞めて武官に転向したのは屈辱だ)。



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