キラ星

□第1片 無色の始まりの欠片
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 今日もいつもの様に兄たち(といってもみんな母親は違うけど)に捕まってしまった。この愚兄たちは本当に愚兄で、毎回毎回同じことを繰り返す。そう、まるで馬鹿の一つ覚え。日々の鬱憤を、僕を使って晴らそうとする。

 毎日振り上げるのは練習用の剣。しかもその扱いは酷いもので、恐らく剣の才能は限りなくゼロに近い。そして毎日の行動、罵倒。この内容も相変わらずで、正直飽き飽きしている。だが、痛いものは痛いし、鬱陶しいものは鬱陶しい。一度は泣き喚いたり、反撃したりと色々対処はしてみたが、図に乗ったり、過激になるだけで、一番早く、マシに終えるにはジッと耐えていることだと学んだ。

 何の反応も示さないと白けるのだろう。兄たちは結構あっさりと自室へと戻ってくれる。やっと解放された僕は、痛む体を気遣いながらも大きく伸びをした。清兄と劉兄に見つかる前に部屋へ戻らないと、また二人に心配をかけてしまう。そう思った矢先。

「見つけたぞ! 煌輝!」

「また手を出されていたのか」

 心配そうな表情で唯一優しくしてくれる大好きな兄、清苑兄上と劉輝兄上が駆け寄って来た。僕は何でもない風を装う。

「清兄、劉兄。そんなに慌ててどうしたんだ?」

 コテン、と首を傾げて尋ねてみるが、劉兄が泣きそうな顔で、僕を抱きしめる。清兄はそんな劉兄と僕の頭を優しく撫でてくれた。

「先ほど兄上たちがここから戻る姿を見た。それにこの身体の傷……何もなかった訳がないだろう?」

「煌輝が辛い分だけ、私たちも辛いんだ。だから少しでも我慢して欲しくない。私たちを頼って欲しい」

 二人にはこんな顔させたくないのに。心配させていることに胸が痛んだ。

「心配、かけてごめんなさい。清兄と劉兄を信用していない訳じゃないんだ。心配かけたくなくて……でも心配させてしまった。ごめんなさい」

 劉兄の胸に顔をうずめて両手を背中にまわした。体中の傷よりも、心が痛かった。

「煌輝も、劉輝が苛められていると分かったら飛んでいくだろう? 私たちもそれと同じなんだよ」

 清兄に再びわしゃわしゃと頭をかき混ぜられる。僕はもう一度小さく謝罪の言葉を口にした。










 その日の夜、昼に続きまた、愚兄たちに捕まった。今度は思いっきり抵抗して大声で二人の兄の名を呼んだ。心配かけたくないからこそ、必死でもがいた。だが、兄たちにはやはり、それが癪に障ったらしい。澄み切った寒空の下、僕は庭院の池へと投げ込まれた。

 元々水は苦手だった。だからその時も溺れることしか出来なかった。兄たちに泳げないことを知られたのは本当に屈辱だったけど、そんなことに構っていられる余裕はなかった。清兄と劉兄に助けを求める声をあげることさえ、出来なかった。

 そして僕の彩雲国での記憶は、ここで途切れた。



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