「ねー、ティア!」
ズバン、と腰辺りに衝撃が加わり、同時にしがみ付かれる。その大きさと声からグレタだとわかる。……が、突然の衝撃は、お兄さん、結構ツラいよ?
「どうした、グレタ。楽しそうじゃん?」
クルリと振り返り、彼女の顔を覗き込むと、いつも以上に顔を綻ばせている。相変わらず可愛らしい表情が一層輝いて見える笑顔だ。
「ティアは“くるしみます”って知ってる? あれ? “くるしみました”? “くすりすます”? わかんなくなっちゃった……」
わかりやすい言い間違いをしてくれるので、俺としても答えやすい。
「クリスマス、のことか?」
「そう、それ!! “くりすます”!! もうすぐ“くりすます”だから、赤い服を着たオジサンがふほーしんにゅーを繰り返して、世界中のよい子にプレゼントを配るんでしょう?」
「それはまた、的確な表現だな。健あたりに吹き込まれた?」
グレタはキラキラと輝かせた目で俺を見上げる。内容は子供らしいが、表現は実にシビアだ。有利ならこんな教え方はしないだろう、とグレタと視線を合わせる様に膝を折った。
「ヤだなぁ、吹き込むなんて。僕はただ、渋谷の説明に茶々を入れてただけだよ」
「それが問題なんだろ……」
どこからともなく現れた健が、カラカラと笑いながら歩み寄ってくる。彼が血盟城にいるのは珍しいが、クリスマスパーティーの準備のためなら不思議じゃない。そんな健にため息を返すと、グレタが本題を提示した。
「でね、ティア! ティアなら“くりすます”のお話、何か知ってるかもしれないってコンラッドが教えてくれたんだけど……」
「それで俺の所に? ……まぁ、雑学程度なら知識はあるけど、そんなに面白いもんでもないぜ?」
「うん。いーの。教えてー。 いま、グレタは“くりすます”のお勉強中なの!」
ニッコリと笑う少女に、思わず俺もつられてしまう。そして、健も同様に頬を緩め、自分も聞きたいと言った。
「地球の話だぞ? 知ってるんじゃねーの?」
「多分知らないよ。ね? 良いだろ?」
「別に構わないが……」
「よし、じゃぁ渋谷の執務室に行こう! 渋谷や星瞬、仲間外れにしたら怒るしね」
あの二人は執務中なはずなんだが……。そんな俺の呟きには完全スルーで、健はグレタの手を取り、執務室の方へと歩き出して行った。
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