白と黒

□Let’s kiss under the mistletoe !
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 眞魔国的クリスマスパーティー in 血盟城。
 その、当日。俺は会場警備総指揮、という任務が与えられていたので、その会場を事前に見ておこう、と足を運んだ。
 立食形式の食事スペースと広大なダンスフロア。その中心には存在を主張する、クリスマスツリー。モミの木ではないが、それに似た眞魔国の常緑樹だ。ツリーや室内の飾り付けは昨日までにクリスマスを知る地球メンバー三人プラスコンラッドを中心に、城中の者が協力し合ってにぎやかになっている。その内の一つだろう。見慣れない、丸い物体がいくつかつり下げられていた。

「あれは何だ?」

 俺の呟きを聞く者はいないのに、疑問が口をついて出た。驚いたのは、それに答えが返って来たことだ。

「あれはヤドリギだよ。クリスマスの定番だろ?」

 その声に振り返ると、幼馴染の姿。

「母上がヤドリギ伝説をどこかで聞いて来たらしくてね。わざわざ陛下たちに地球から運ばせたらしい」

 コンラッドの説明に、ツェリ様ならやりかねないな、と思う。恋する戦士はいつでもどこでも全力全開だ。

「あれがヤドリギか。俺のイメージでは柊的なものだったが……全然違うのな」

 俺は会場の下見に来ていたことも忘れて、ヤドリギに見入っていた。

「なぁ、ツェリ様がそこまで固執するヤドリギ伝説って何だ?」

 ひそかにコンラッドと一緒にいたヨザックが青い瞳をキョトンとさせて問う。自分だけ話が理解出来ないのが面白くない様だ。

「ヤドリギの下にいる女性は男性からのキスを拒否出来ない……ん? ヤドリギの下にいる男女はキスをする権利がある? え? 義務? 強制? とりあえず、ヤドリギの下でキスをした男女は結ばれる……って話」

 ロマンチックな言い伝えだと思う。相手が好きな奴であれば。
 ヨザックはその説明にやや複雑そうな表情を見せた。

「ふーん。ヤドリギの下でキス、ねぇ……」

「あぁ。ツェリ様のことだから、色んな殿方相手にキスするんだろうなぁ。あ、コンラッド。有利取られないように気を付けとけよ」

「言われずとも」

「健と星瞬にも注意するよう言っとかねーと……」

 それでは会場警備というより、国のトップの護衛だ。そんなことで頭を悩ませていると、急に髪を引っ張られる。仰向けで倒れそうな所を、攻撃してきた張本人であるヨザが支えてくれた。

「何すんだよ」

 危ないだろ、と続けようとした言葉は飲み込まれた。誰にって、ヨザに。唇をヨザのそれで塞がれ、徐々に徐々に深くなる口付け。フワフワと思考が宙を舞い、何も考えられなくなる。息継ぎが出来なくて苦しくなることさえ、甘いシビレに変わっていく。ようやく離された時には、支えがなければ立っていられない程。

「不意打ちで、しかもコンラッドの前でなんてやめてくれ」

 顔に熱が帯びるのを自覚しながら、何とかそれだけを告げる。ヨザックは先程とは打って変わって、満足げに微笑んだ。

「お前こそ気を付けろ。今みたいに、俺以外の者に襲われない様にな。今日はパーティーの間ここに引きこもりなんだろ? どこもかしこもヤドリギだらけだ」

「引きこもりって言い方やめろ。仕事だ、一応。そういうヨザは休みなんだろ? パーティー満喫しすぎて変な気起こすなよ。馬鹿騒ぎすんな、面倒かけるな」

「ティアの言う通りだな。シワ寄せは全てこっちに回ってくる」

 俺の言葉に、コンラッドも呆れた様に続けた。

「そんなこと言ってぇー。隊長だって坊ちゃんとキスするつもりだろー。今でもパーティー中でも変わりねぇーじゃん」

 悪びれる様子もなくカラカラと笑うヨザ。ん? 何か話がすり替わってないか?

「心配しなさんな。パーティー中はティアについて回るつもりだ。仕事の邪魔はしない。坊ちゃん方が言うには、恋人同士の為のイベントなんだろ? くりすますって。だったら誰にも文句言わせねぇ」

 自信満々で言い切るヨザに、俺もコンラッドも諦めモードだ。この状態では誰が何を言っても聞きやしない。まさに、“誰にも文句を言わせない”だ。
 まぁ、確かに、地球では日本で過ごした俺にとって、クリスマスは恋人の為のものだし、普段すれ違いの入れ違いが多いヨザと一緒に過ごせる機会を(仕事中であろうが)逃すのは嫌だ。

「羽目を外すな。仕事を忘れるなよ」

 そんな俺の思考を読んだコンラッドがポツリと呟く。

「りょーかい」

 俺の答えに満足したヨザの笑顔に、めちゃめちゃキュン、としたのはここだけの秘密。


- end -

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