フランス、パリのシャンゼリゼ通り。世界的に有名なこの通りは平日でも多くの人が行きかい、賑わいをみせている。石油燃料が枯渇してからというもの、以前にはよく見かけられた黒いベールを身にまっとった人々は年々減り、町の風景も少し変わってしまった。
しかし、この町が流行の最前線にいることには変わりはなく、それが原因で僕らはここにいる。

「あった!これだろ、クリスが言ってたもんは。」
「ええ、色も形もあってますし。」
「‥‥。」

クリスティナ・シエラ―――彼女にここに行くよう頼まれたのは5日ほど前のことだ。
パリで二日ほど前に開かれたAEUの軍事パーティ。そこへの潜入調査が今回の僕らの任務だった。
任務を終え明後日宇宙へ戻る予定なのだが、その前にクルーのみんなに買ってくるよう頼まれたものと、この通りの店にあるクリスに頼まれたブランドもののバッグを買いにきた。なんでも雑誌でこのバックに一目ぼれし、地上に降りられない代わりにどうしても買ってきてほしいとのことだった。

「疲れた‥‥。」
「大丈夫かティエリア?」

会計を済ませ、店を出たときティエリアがつぶやいた。
人ごみが苦手なティエリアには
いささか疲れたらしい。ただでさえ買い物に行くのを地上は嫌いだと言って来ようとしなかった。それを無理につれてきたのは同じマイスターであり、ティエリアの恋人でもあるロックオンだ。来るのを渋るティエリアの腕を引っ張ってここまでつれてきたのだが、さすがに弱音を吐くティエリアが心配になってきたらしい。
僕には少し疑問だった。ティエリアの地上と人間嫌いは僕らにとってはわかりきったことであり、恋人であるロックオンなら尚のことこうなることは予測できたはず。
また、ただティエリアといたいのならホテルに二人で残ってもよかったはずだ。みんなに頼まれた買い物はあくまで地上に降りたついでであり、たいした量はない。一人でも持ちきれるぐらいの量だった。
なのに何故無理にでもティエリアをここへつれてきたのか。

「少し休憩するか。えと…そこでいいか?」

そう言ってロックオンが指さしたのは、少し先に見えるこの通りにはよくある形のカフェテリアだった。
僕もティエリアも異論はなく、店に向かいオープンテラスに座る。適当に注文を済ませ、今日あったことや昨日の任務の話をして注文したものを待つ。

注文したものはすぐにやってき
た。僕とロックオンはアイスコーヒー。プラス、ロックオンはパフェ。ティエリアはミルクと砂糖たっぷりのミルクティーだ。
ここでふと気づく。
 
「ロックオン、甘いもの好きでしたっけ?」

ロックオンは甘いものは好きだ。だが、少し休憩するのにわざわざ頼むほど好んではいなかったはず。
僕の質問にロックオンは少しニヤリと口の端を上げ、以前刹那にミルクをおごったときと同じポーズをとって、その指先を今度は僕に向けた。
男のロマンだロマン、などと意味のわからない答えにますます僕の頭に疑問符が浮かぶ。

「と、いうわけで。はいよ、ティエリア。」
「‥‥は?」

僕もティエリアに続き、は?と口にしそうになった。ロックオンがイチゴに生クリームとチョコレートを絡ませスプーンにのせたかと思ったら、次に甘いだろうそれをティエリアの口元に持っていったのだ。

「食いたかったんだろこれ。ほれ、あーん。」
「ぼ、僕は別に‥‥!」

なるほど。
パフェは自分で食べるためではなく、ティエリアのためだったのか。男のロマン…とは食べさせること言うのだろう。
アイスコーヒーにミルクとシロップを注いでかき混ぜながら、少し不機嫌なティエリアと、
反対に上機嫌なロックオンを眺める。なんとか食べさせようとするロックオンにティエリアが折れ、おずおずと口を開けた。どうやらパフェを食べたかったのは本当らしい。いつものティエリアなら絶対に折れようとはせず、意地でも口にしようとはしないはずだから。
注文するまでのほんの少しの間にティエリアがこのパフェを食べたそうにしていると見抜いたロックオンは、さすがティエリアの恋人といったところか。
それにしても‥‥‥

「うまいか?」
「まあ‥‥。」

いつも戦場に出向き戦い、心休まることが少ない僕らにとってこの光景はなんともほほえましいものだ。
だが、仲間がこうも仲がいいのを見ているのはいささか気恥ずかしい。前を向いていると嫌でも視界に入ってくるので視線をコーヒーへと落とし、ストローでかき回す。氷がカラカラと涼しげな音を立てた。
そんな僕の行動に僕の片割れのガキか、と馬鹿にした声が聞こえる。。しょうがないじゃないか。ろくな生活を送ってこなかった僕にとってこういったことはそう見るもんじゃない。未だにテレビや映画のキスシーンですら慣れないでいるんだから。
next

[TOPへ]
[カスタマイズ]




©フォレストページ