管理人お気に入り・怖い話

□壺
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晩御飯のご相伴にあずかり、泊まって行けというので俺は風呂を借りた。
風呂からでると、師匠がやってきて「一緒に来い」という。
敷地の裏手にあった土蔵に向うと、宗芳さんが待っていた。
「確かにお前には見る権利があるが、感心せんな」
師匠は硬いことを言うなよ、と土蔵の中へ入って行った。
土蔵の奥に下へ続く梯子のような階段があり、俺たちはそれを降りた。
今回の師匠の目的らしい。
俺はドキドキした。
師匠の目が輝いているからだ。
こういう時はヤバイものに必ず出会う。

思ったより長く、まるまる地下二階くらいまで降りた先には、畳敷きの地下室
があった。
黄色いランプ灯が天井に掛かっている。
六畳ぐらいの広さに壁は土が剥き出しで、畳もすぐ下は土のようだった。
もともとは自家製の防空壕だったと、あとで教わった。
部屋の隅に異様なものがあった。
それは巨大な壷だった。
俺の胸ほどの高さに、抱えきれない横幅。
しかも見なれた磁器や陶器でなく、縄目がついた素焼きの壷だ。
「これって、縄文土器じゃないんスか?」
宗芳さんが首を振った。
「いや、弥生式だな。穀物を貯蔵するための器だ」
そんなものがなんでここにあるんだ? と当然思った。
師匠は壷に近づくとまじまじと眺めはじめた。
「これはあれの祖父がな、戦時中のどさくさでくすねてきたものだ」
宗芳さんは俺でも知っている遺跡の名前をあげた。
その時、師匠が口を開いた。
「これが穀物を貯蔵してたって?」
笑ってるようだ。
黄色い灯りの下でさえ、壷は生気がないような暗い色をしていた。
宗芳さんが唸った。
「あれの祖父はな、この壷は人骨を納めていたという」
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