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□東山ホテル
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連鎖するように動揺が広がって何人か下へ駆け降りた。
「落ちつけ。落ちつけって」
最悪だ。パニックはよけいな事故を起こす。俺は上がろうか降りようか逡巡したが、ジリリリリリという気味の悪い音は心臓に悪い。
「走るな。ゆっくり降りろよ」
と保護者の気分で言ったが、懐中電灯を持っている二人はすでに駆け降りてしまっている。暗闇がすうっと下りてきて、ぞっとしたので俺も慌てて走った。
広くなっている1階のロビーあたりで皆は固まっていた。俺が着いたときに、ふっ、と電話は止った。
「もう帰る」
と泣いてる子がいて、気まずかった。男たちも青い顔をしている。
その時一番年長の先輩が口を開いた。俺のオカルト道の師匠だ。
「ゴメンゴメン。ほんとにゴメン」
そういいながらポケットから携帯電話を取り出した。
「こんなに驚くとは思わなかったから、ゴメンね」
曰く、驚かそうとして昼間に携帯を一台3階に仕込んでおいたらしい。それで頃合をみはからってこっそりそっちの携帯に電話したと。
アフォか! やりすぎだっつーの。
もうしらけてしまったので、そこで撤退になった。
帰りしな師匠が言う。
「あそこ洒落にならないね」
洒落にならんのはアンタだと言いそうになったが師匠は続けた。
「僕たちが慰霊塔見てる時、ホテルの窓に人がいたでしょ」
見てない。あの時ホテルのほうを見るなんて考えもしない。
「夏だからDQNかと思ったけど、中に入ったら明らかに違った。10人じゃきかないくらい居た。上の方の階」
「居たって・・・」
「ネタのためにケータイもう一個買うほどの金あると思う?」
そこで俺アワアワ状態。
「あれはホテルの電話。音聞いたでしょ。じりりりりり」
たしかに。
みんなを送って行ったあと、師匠がとんでもないことを言う。
「じゃ、戻ろうかホテル」
俺は勘弁してくれと泣きつき、解放された。しかし師匠は結局一人でいったみたいだった。
後日どうなったか聞いてみると、ウソか本当かわからない表情で
「また電話が掛かってきてね。出ても受話器からジリリリリリリ。根性なしが!!って一喝したらホテル中のが鳴り出した。ヤバイと思って逃げた」