怖い話A

□ロープウェイ
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ロープウェイなど、普段なら使わない俺だが、時には高みから谷間や峰を見下ろしたい気分になる。

時季はずれということもあり、ロープウェイには俺の他に、夫婦らしい男女が二人乗っているだけだった。

晴れてはいたが一部に雲があり、行程の半ばあたりまで来た頃、その雲の中にいた。一番景色がよさそうな場所で雲にぶつかるとは、ついてない。やれやれと息をつき、ザックのポケットから携行食の小さなチョコレートを出し、口に放り込んだ。

やがてロープウェイのプラットフォーム。係員が扉を開け、同乗の二人連れが席を立った。

「しばらくご一緒しませんか。」

山ではよくあることなので、同意し、立ち上がった。彼らが降り、俺も続こうとしてふと気づいた。

着くのが、早すぎる。

「すいません、この先で降りますから」

係員に声をかけ、先に降りた二人連れにもそれを告げた。

「そうですか、ではお気をつけて」

係員が無言で扉を閉めた。俺一人がロープウェイに残り、そのまま進んだ。

振り返ったそこに、プラットフォームなど、無論ありはしない。大きく息をつき、静かに手を合わせた。

上まで行ったら、小さなケルンを二つ作ろう。そう思った。

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