怖い話
□おめん屋
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今から5、6年程前の初夏の話。
知人が持っているある地方の別荘を貸してもらえる事になったんで、俺と彼女は車で小旅行にでかけたんだ。
チェックイン時間とか気にする必要もないので、途中に色々寄り道していたら予定よりおそくなってしまった。昼間は、はしゃいでいた助手席の彼女も少し疲れたのか口数が少ない。陽が落ち始め、あたりがだんだんと薄暗くなる感じ。それに少し風が出てきたようだ。
そんな中、海岸沿いの細い国道を目的地に向かって単調に流していた。俺の方も知らない道、ほとんど対向車もなく寂しい感じの上に、これまた街灯がつくかつかないかの淡い紫色の夕暮れになんか妙な帰巣本能みたいなのを感じていた。
そんな時、彼女が
「あ、おめん屋さんだ」
と前方を指さした。
確かに進行方向の左前方に何か小さな小屋みたいなのが見える。心持ちスピードを落として近づくと、そこに屋台がぽつんと止まっていた。もう何年も前に営業をやめたであろう朽ち果てたドライブインの駐車場にそれはあった。
俺は
「ホントだ。確かにおめん屋、、、だな。」
とつぶやいた。というのも、ひとり用のリヤカーの荷台部分に百葉箱のような小屋が組まれており、そのこやの壁面におめんがずらっと飾られていたんだ。
「へー、変わってるね。こんなの見るの初めて。」
と彼女は少し元気が出てきたようだった。縁日の屋台なんかでは、たまに見かけることもあったが、移動式は俺も初めてだった。彼女はシートベルトが邪魔だとかぶつぶつ言いながら、窓から身を乗り出すようにして車の通過にあわせて、おめん屋の方をずっと見送っていた。