怖い話

□サバイバルゲーム
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5年前の夏、たしか7月の話。当時、俺はいい年をしてサバイバルゲームにはまってた。

知らない方のために解説すると、おもちゃの空気銃を撃ち合う陣取り合戦みたいなもんなのね。夏場は(昼間は暑いこともあり)もっぱら夜戦が専門で、その週末も、北関東T木県のK怒川の河原に十数人が集合して、夜戦に興じていた。時計を合わせた覚えがあるから、深夜1時少し前だったと思う。

何回目かのゲームで、俺はフラッグ(相手の陣地のフラッグを取った方が勝ちになる)のディフェンスになり、フラッグの後方で藪に身を潜めて待ち伏せをかけてた。今回俺のいたチームは優勢で、はるか彼方の敵陣地深くからエアガンの銃声が聞こえてくる。まわりに全く人の気配はなし。はっきり言ってヒマなんだが、フィールドを回りこんで奇襲をかけてくる奴もいるから気は抜けない。河原ということで月明かり以外に照明もなく、あたりはマジで鼻をつままれてもわからないほど真っ暗。ゆっくりと首を巡らせて(キョロキョロすると頭の動きで居場所がばれるので)あたりを警戒していると、50mほど先の藪から人の上半身が出ているのに気がついた。白っぽい半袖の服を着た、肩ぐらいまでの髪の女性っぽい人影が俺の方を見てた。エアガンはおもちゃだけどそれなりに威力があり、まともに顔や眼に当たれば大怪我をすることもある。だから、ゲーム中に部外者が入ってきた場合にはすぐにゲームをストップすることになってた。俺はすぐに大声で

「人がいまーす!中止!中止でーす!!」

と叫んだ。前線のあたりでも

「中止ー」「中止だってよ」

と叫び声がする。俺はその人にお詫びを言おうと思い、藪の方へ駆け出した。女の人はじっとこっちを見てた。

「すいません」

と声をかけようとしたとき、人影はすーっと動いて、森の中に入ってしまった。やべ、恐がらせちゃったよ(なにしろこちらは迷彩服で顔を黒く塗っておまけに銃を持ってる)と思い、その人を追って森のほうへ向かったんだが、ライトをつけて探しても見当たらない。そのうちに他のメンバーも集まってきた。事情を話し、みんなで声をかけながら10分以上も探したんだが、どうしても見つからないんだよ。森の中もくまなく捜したのに。俺は自分が見たものがだんだん恐くなってきてた。なんで夜中の12時過ぎに女がこんな所を歩いてるんだ。第一、俺がその人を見た場所にはフィールドを横切って来るしかない。そんなの誰も気づかないわけがない。だがなんぼ探しても見つからないので、結局、俺の見間違いだということになり、ゲームは再開になった。

俺はまたディフェンス。今回は左右から進んでくる敵が優勢で、開始から10分後には銃声がかなり近くなっていた。俺は地面に伏せたまま銃をしっかり構え、いつでも撃てるように照準器ごしに人のいるあたりを睨んでた。そしたら、なんか視線を感じる。気のせいではすまないくらいに視線を感じる。首をゆっくり左に振って、眼だけで自分の左横を見る。真っ暗闇の中、3メートルくらい先の地面に、女の人の首が生えてた。さっきの人だとわかった。色白の顔に、なんか普通じゃ考えられないぐらい口ががばーっと開いてて凄い笑い顔。声は聞こえないけど顔をひくひくさせて笑ってた。確かに笑ってた。そんで俺をじっと見てた。その首が潜望鏡みたいに地面の上をざ、ざ、ざーって動いて俺の正面に回ってゆっくり近づいてきたんだよ。
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