怖い話

□スミマセン、ウチの娘が
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「すいません、うちの娘が」

と藤棚の向こうから声がしました。普通の、何の変哲もない女の人の声でした。ですがその声を聞いた瞬間、全身に鳥肌が立ち「ヤバい」という気持ちになったのです。一刻も早くそこから逃げ出したくなりました。

「わたし、遊んでくる」

と唐突に女の子が言い、藤棚のすぐ向こうにあるジャングルジムへ向かって行きました。私ははっと我に返りました。

「すいません、うちの娘が」

また、あの声がしました。なんの変哲もない声。今度は鳥肌も立ちません。気のせいだったのか…?私は意を決して藤棚の向こう側、ベンチの見える場所にほとんど飛び出すような勢いで進みました。飛び込みざま、ばっとベンチを振り返ります。…そこには少し驚いたような顔をした女性が座っていました。肩くらいまでの髪をした30過ぎくらいの女性です。

「すいません、うちの娘が」

彼女は今度は少しとまどい気味にそう言いました。…なんだ、普通の人じゃないか、そう思うと急に恥ずかしくなり私は「ええ、まぁ、いえ」などと返すのが精一杯でした。 私はその後、その女の子の母 親と軽く世間話をしました。天気がどうだの、学校がどうだの…とどうでもいい話なので省きますが。母親も言葉少なですが普通に話していました。女の子は藤棚のすぐ隣、私の背後にあるジャングルジムで遊んでいます。そろそろ日も沈もうかという頃合い。公園はオレンジ色に染まりつつありました。私はふと、当初の目的を思い出しました。何故私がここに連れてこられたのか、です。そこで

「あの、どうして僕をここへ…」

と問いかけました。その瞬間です。

「チエっ!!」(※注:仮名)

と、もの凄い声で母親が叫びました。おそらくあの女の子の名前。私はばっと背後のジャングルジムを振り返りました。すると目の前に何かが落ちてきて鈍い音と何かの砕ける音が足下でしました。ゆっくりと足下に視線を向けるとあの女の子、チエという女の子が奇妙にねじくれて倒れていました。体はほぼ俯せなのに顔は空を向いています。見開いた目は動きません。オレンジ色の地面に赤い血がじわじわと広がっていくのを私は呆然と見ていました。警察、救急車、電話…などと単語が頭の中を飛び交いましたが体は動かなかったのです。そのとき女の子がピクリと動き、何事かを呟きました。まだ生きてる!と私は走り寄り女の子が何を言ってるのか聞き取ろうとしました。
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