怖い話

□猫
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その夜、俺は拾ったばかりの仔猫を病院へ連れて行っていた。
アメリカンショートヘアの胴体部分の模様をかき混ぜてしまったような、
白地に黒い毛の混じった銀色っぽい毛並みの猫だ。
ストレスで体調を崩したらしく、点滴を打っただけで帰ることができた。
疲れているのか、うとうとしているそいつを寝室に置き、
飛び出さないように窓とドアを閉めて手早く晩飯を作って食った。
30分ほどで様子を見に戻ると、ドアをあけた途端、寝ていたはずのそいつが
パソコンデスクの影から慌てて飛び出して来ながらミィミィと鳴いている。
普段は何があっても鳴いたり暴れたりしない大人しい奴なのにどうしたんだろう。
部屋の中は月明かりでぼんやりと照らされ、どこかから耳慣れない音が聞こえてくる。
ジィーッともシャァーッともつかないその音は、
例えるならいつかテレビで聞いた蛇の威嚇音のようだ。
この音に怯えたんだろうか?
裏で工事をやっているらしいから、そのせいかもしれない。

視界の隅で何かが動いた気がしてそちらに目をやった。
薄暗くてわかりづらいが、米粒ほどの大きさの黒いものがもぞもぞと這っている。
ゴキブリの幼生だろうと思い、近くにあったティッシュを掴んでそれを押しつぶした。
その時、妙なことに気づく。
マンションの真裏で、こんな夜遅くまで工事なんてやっているものだろうか。
大体、今夜は 月 な ん て 出 て い な か っ た んじゃないか?
反射的に立ち上がって明かりをつける。
いつの間にか音は止んでいた。
外に視線を向けると、窓から 覗 い て い た 顔 がさっと隠れた。
慌てて駆け寄って勢いよく窓を開ける。
ベランダなんて気の効いたものはなく、5階の高さの先にある地面は
星すら雲に隠された闇の中では見えなかった。
握り締めていたティッシュを開くが、そこには何の痕跡もない。
いつの間にか仔猫は穏やかに寝息を立てていた。
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