□チョコレートパイ
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中忍一小隊を任務へ送り出し、我愛羅はふぅと一息ついた。
この部隊が、今日最後の出発者達だった。
手帳を取出し、とりあえず一日の予定を終えた事を確認すると、我愛羅は、すでに冷めてしまったお茶を流し込んだ。
目を閉じれば、疲れがどっと押し寄せる。
毎日この椅子に座っては、多くの者を招き、見送り、出迎えていた。
数々の依頼人にも対応し、束になった手紙に目を通していれば、今度は会議のお呼び出しがかかる。
その繰り返し。
命を懸けて任務を遂行している者達に比べれば、疲れたなんて言ってられないのだけれど。それでも、重い体を深く腰掛けてしまいたくもなる。
それに、予定が終わったからといって、仕事が終わったわけではないのだ。
我愛羅は、うっすらと目を開けそれを見た。
部屋の隅に追いやった、その、山積みの書類。
風影となって、一番煩わしい作業だ。
コツコツと、時間の合間合間を見つけては片付けているつもりなのだけれど。
その限られた間で捌ける量は取るに足らないし、捌いた分は倍となって返ってくる。
そうして自然と手付かずになってしまった書類が、そこに堂々と居座っているわけだ。
早く始末しないと、いつの間にか、守鶴並の化け物へと変貌していたりするから。
今日中に片付けておこう。
しかし、そう決心するにもかかわらず、気付けば窓の外へ目を逸らしている自分がいた。
日没まで後僅か。
空を染める、藍から黒へのグラデーションに、しばし目を奪われる。
と、扉を叩く音がした。
我愛羅は、椅子の背に預けていた身を起こし
「入れ。」
と促せば、一週間前任務を言い渡したカンクロウが姿を現した。
「任務完了致しました。」
半ば冗談混じりの声を聞き、危険な任務からの帰還に安堵する。が、同時に手渡された報告書にうんざりした。
しかし
「ご苦労。」
と言った時、カンクロウが左手に、包帯を巻いている事に気付いた。
「…怪我をしたのか。」
「ん、まぁ大したことねぇじゃん。」
カンクロウはそう言って、左手を動かしてみせる。
軽傷のようだ。
しかし、この兄が怪我をした時点で、相当大したことの様な気がする。
それでも、それを乗り越えて、彼は帰ってきたのだ。
その事がどれだけ大変で、しかし、どれだけ喜ばしいことか、たまに我愛羅は思い知らされる。
「明日は、お前に言い渡す程の任務は無い。ゆっくり休め。」
「そりゃ嬉しいじゃん。」
素直に喜ぶカンクロウを見て、我愛羅にも笑みが浮かぶ。
受け取った書類を、例のように机の横に追いやった。
もう少しだけ。
「今日はテマリも帰ってくる予定だ。」
「へぇ、久しぶりじゃん。そっか、中忍選抜試験が終わったもんな。」
「あぁ。」
「あいつ、試験官は気疲れする、なんて言ってるくせに、誰かさんの所為で毎回受け持ってるじゃん。」
カンクロウはククッと笑った。
その空気に、我愛羅もこのまま帰りたくなってしまう。
里の重役になってから、姉弟が揃うことは滅多に無くなった。
それはちょっとした、貴重な時間。
ハリネズミの様な武装を解除できる、数少ない休息。
しかし
「夕飯でも作って待ってるかな。お前は?」
そう聞かれて、我愛羅は答える代わりに、あの山積みへ視線を向けなくてはいけなくなった。
その目線をたどったカンクロウも、あぁ、とため息に似た声をもらす。
「…風影は大変だな。」
「そうも言ってられまい。」
生真面目な弟の返事に、カンクロウは苦みの含んだ笑いをし、そして部屋を後にした。
我愛羅は、彼のその黒装束に映えた白い包帯を見て、人知れず居住まいを正すのだった。
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