□泣きたいだけなのさ
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妙を家に帰した後、九兵衛は怪我をした東城の手当てをしていた。

「…」

二人とも無言で、暫くした時に、九兵衛が小さく嗚咽をあげだした。

「うっ…うぅ」

「若?」

驚いた東城をそのままに、九兵衛は大声を上げて泣き出した。

「うわぁぁぁん、ああぁあん!!」

「え、若?!」

困ってしまった東城は、そっと九兵衛を抱き寄せて彼女の頭を撫ぜた。

すると九兵衛は東城にすがりついて、ますます大声を上げた。

「わあぁあん、わあああぁっ」

「若、若。大丈夫ですよ。
私は若の味方です」

すがりつく九兵衛の背を撫で、甘い香りのする頭髪に軽く口づけた。

(味方なんて関係ない、僕は東城、お前の綺麗な顔に傷がついた事に腹が立ったんだ。)

「若…若、さぁ、落ち着いて。
お茶を入れて差し上げましょう」

(いらない、いらないよそんなもの)

東城の服を握る手に、九兵衛は力を込めた。

「若?」

顔を上げ、九兵衛は東城の唇に自らのそれを重ね合わせた。

東城は驚き、固まる。

ただ重ね合わせるだけの幼い口づけだが、九兵衛は満足して顔を離した。

そして、東城の胸に顔をうずめる。

抱きしめてくるその肩が震えていて。

東城もまた、泣いているのだと。

なんとなく、九兵衛は思った。

(だって僕は君の綺麗な顔が好きなんだ)

(ねぇ、若。私はアナタの為に傷付くことなんざちっとも怖くは無いのです。
でもね。アナタが泣くのはとっても怖いんです)

((それこそ、泣いちゃう位に))



おわり
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