□足袋を恨む
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素早く東城の言葉を遮る九兵衛。

だが、東城は緩く左右に首を振った。

「違います。
………あ、あの」

急に口をもごもごさせ始めた東城を、九兵衛は怪訝そうに見た。

決心がついたのか、深呼吸をした東城は一気に言った。

「若、私は若の好みに合わせたお召し物を用意させて頂きたいのです。
ですから、近いうちに私と一緒にデパートへ行ってほしいのです」

デートがしたいんです。

「あ」

今度は東城が真っ赤になる番だった。

「いや、ですからですね……」

また、口をもごもごさせる東城を、今度は優しく。

九兵衛は見つめた。

「そうだな…」

「へっ?!」

「デート、しようか。
お前が、選んでくれた服と、靴を履いて」

「若」

「ん?」

組んだ足をそのままに、九兵衛は隣に座り込んでしまった東城を見やる。

「お慕い申し上げております」

真っ赤になった、彼がはっきりと告げた言葉。

九兵衛は嫌じゃなかった。

「知ってる」

優しく笑った九兵衛は美しく、東城は今度こそ何も言えなくなり、俯いた。

東城の視線の先には、ちょうど九兵衛の爪先がある。

黒い、男物の足袋。

ただそれだけが、東城は残念だった。




終わり。
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