短編・少年少女漫画

□東リベの一時的な夢
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たけみっちがリベンジスタートしてない時期に出会う。





どうして私は、戻って来たんだろう。
どうして私は、忘れられないんだろう。
どうして私は、付いてきてしまったんだろう。
どうして私は、傍にいるんだろう。



「大和!」



どうして私は、佐野さんに抱きしめられてホッとしてるんだろう。





―――――

半間と過ごした日々がつまらなかったわけじゃない。
佐野さんを殺したいほど憎いわけでもない。
生きていることが嫌なわけではない。
芭流覇羅のたまり場で、場地圭介と話したことは忘れない。

「お前はマイキーの傍にいるべきだ」

何故だろう。場地圭介は、真っ直ぐな瞳をしていた。私の濁った身体に何を期待したのだろう。

「お前を、マイキーは待ってる」

知らない。そんなこと。
私は、すべてから離れたかった。
じいちゃんとばあちゃんとねこと、佐野さんと。一緒に過ごした場所から。離れたかった。
もう、笑い声は聞こえない。





―――――

稀咲が死んで半間は1人になることを選んだ。
私を連れて行くことはなかった。

「悪りぃな。お前は連れてけねぇや」
『別にいい』
「ひひっ、冷てぇなぁ…。愛し合った仲だろ?」
『…』
「まあいいや。稀咲と話すことあるから、まだ死ねねぇんだ。また後でな。ヤマト」
『うん』

最後に、半間は私をいつも通り抱いた。半間の体液は、私の身体の中に残ったまま半間は行った。
逃亡者になった半間の行方を警察が追いかける。1人残された私は保護され、半間の体液はかき出された。

帰りたいと思ったわけじゃない。
ただ、帰ってみようと思った。
玄関を開けると、いつもすり寄って来たねこが来ない。
じいちゃんの倉庫にいるのか見に行くと、鍵が空いていた。

「…」
『ねこ、ご飯どうすんの?』
「え」

倉庫の鍵を、佐野さんに預けて良かった。
じいちゃんとばあちゃんが死んで、私がいなくなって、誰も来なくなった倉庫なのに綺麗な状態だった。
修理中のバイクを前に、佐野さんが居た。

「…や、まと」
『佐野さんは?ご飯食う?』
「大和!」

佐野さんが、私を強く抱き締めた。
泣いてるのか分からない。
もう離さない
そう言って私にしがみついた。







―――――





佐野さんが東京卍會を解散した。
すぐに私の手を握り、別の世界を歩き出した。
かき出された半間の体液の代わりに、佐野さんの体液が注がれた。
幸か不幸か、生命が宿った。
それを隠すためなのか九井さんの用意したマンションに引き連れられた。

「お、おいマイキー。それは…」
「ん。大和」
『…』
「いや、待てよ!ここに女を連れ込むと、三途が何言うか…!」
「黙らせる」
「黙らせるって……。マイキーの彼女なのか?」
「違う、そういうのじゃない。俺の絆」
「絆…?」
「大和」
『ん』
「ココ。大和に手を出すやつがいたら、殺せ」
「…了解」

九井さんが私の世話をしてくれた。
佐野さんは時々帰ってきて、私のお腹に耳を当てて眠っていた。
私は佐野さんの頭に手を置いて、ただ静かに子供が生まれるのを待っていた。

しばらくして、お腹が大きく膨れた。1人分の肉の塊があって、鼓動して、生きている。実感はない。
相変わらず、佐野さんは時々帰ってきてお腹に耳を当てて眠っている。
私は佐野さんの頭に手を置くことはしなかった。

子供が生まれそうになったから、九井さんが用意した病院に入った。
入院している間に来てたのは九井さんだけだった。

「マイキーは今、忙しいから。許してやってくれ」

申し訳なさそうに九井さんが話した。

『………九井さんは、いい人だね』
「は?」
『なんでもない』

窓を眺めると、気づかないうちに秋の景色になっていた。
マンションから見える景色は、ビルだけだったから木が赤くなってるのに気づかなかった。

冬になる前に出産した。早産だった。
それでも子供は生まれてきた。
なんの意味があって生まれてきたのか分からない子供。
出産の痛みは予想よりも少なくて、立ち会いには誰も来なかった。
寂しさは微塵も感じなかった。
血まみれになりながら産声を上げて、コマ送りのようにうごめいていた。
九井さんが用意した医者は、おめでとうとは言わなかった。それでいい。おめでとうなんて思ってないから。





―――――

「ボス」
「ん?」
「ガキが生まれた」
「…そうか」

あんなに毎日、大和のお腹に耳を当ててたのにマイキーは淡々とした口調で答えた。
三途の声は嫌悪しか感じられなかったが、マイキーの声からは感情がなかった。

「嬉しくねえのか?」
「…」

何も答えなかった。
マイキーと大和は変だ。恋仲じゃないし、恋愛関係でもない。ただ、繋がってる。どこかが結び合ってるように思える。ちょうちょ結びじゃない、歪んだ固結びで。

「行くぞ」
「どこに?」
「病院」

金で雇った医者は、約束通り大和を人目につかない部屋に入院させていた。
さすがに13、4の子供が妊娠なんて問題になるから、隠しておいて正解だったな。

「大和の親に連絡とかしなくていいのか?」
「大和に親はいねえよ」
「ふーん」
「ボス、ガキと一緒に住んだりすんの?」
「考えてねえ」
「うちも賑やかになるなぁ!」
「…」
「ゲェ…ガキと一緒とかクソきめぇ」

扉には大和の名前が書かれていた。
この先に、マイキーと大和の赤ん坊がいるんだ。どんな顔してんのか、ワクワクしてきた。
取っ手を掴んで開けようとした時。

「ココ」
「ん?」
「…………写メ、撮ってこい」
「は?」
「ボスが言ってんだ!早く行けや!」
「うるせぇな!」

意味がわからん。
なんでこんな近くにいるのに、写メなんだよ。
ひとりで病室に入ると、夕日で大和が紅く光っていた。

「おう」
『…』
「身体は大丈夫か?」
『うん』
「子供って、」
『横にいる。出す?』
「お、おお」

マイキーもマイキーだが、大和も変だ。自分がさっき生んだ子供に興味がない。
透明な箱に入って、無菌状態の綺麗な空気しか吸ったことがないようなまっさらな子供がいた。
大和が静かな動作で子供を抱える。
子供が子供を抱えるような、親子というより兄弟のような。

「写真撮っから、そのまま動くなよ」
『…』
「あ、」

外界がお気に召さなかったのか、子供がしわくちゃの顔になった。
泣き出すその瞬間に、人差し指で子供の鼻をこちょこちょといじる。

『大丈夫だよ』
「…慣れたもんだな」

一瞬で安心したような顔になった。
やっぱり、親、なんだな。
大和と子供の空気に安らぐ。
夕日がキラキラと光って、ひどく綺麗だった。
マイキーが廊下で待ってるんだ。さっさと写メ撮っていかねえと。

「わりぃ」
『九井さん』
「ん?」
『戻しといて』
「は?」

物みたいに子供をオレに預けてくる。
マイキーみたいに肝っ玉のでかい子供だな。オレが抱えても泣きも喚きもしない。

「かっ、る…」
『お尻持たないと落ちるよ』
「あ?おわっ!?なんだこれ!ふにゃふにゃじゃねえか!」
『肉の塊だよ』
「いや、ちげぇだろ」

どこもかしこも柔らかくて、支えるだけでしんどい。
弱くて脆くて、触っていたくない。
元いた場所に戻すと、何事もなかったようにスヤスヤと眠り出した。

「オレに渡すなよ…」
『九井さんはまともだから』
「あ?どういう意味だ?」
『んーん。佐野さんは?』
「あ、ちょっと待ってろ」

廊下に出ると、無表情のマイキーが立っていた。三途はつまらなさそうに床に座っていた。

「こんなとこで座んなよ」
「うるせぇ」
「ココ」
「ああ。ほら」

携帯を渡すと食い入るように画面を見つめる。
目を大きく見開いて。

「………春千夜、殺せ」
「りょーかい、ボス」
「は?」

マイキーはオレに携帯を渡して、三途を見ずに訳わからんことを言う。
三途は勢いよく立ち上がると、大和の病室にズカズカと入り込んだ。
大和に何かを言ってるようだが、廊下まで聞こえない。

「な、んで…」
「必要ない」
「じゃあなんでっ!?」

大和を抱くんだよ!と言葉にする前に三途がタオルに包まれた小さな物を抱えて出て来た。
声も上げず、身動きも取れず、何のために生まれてきたんだよ。

「片付けたぜ、ボス」
「ああ」

三途と入れ替わりでマイキーが病室に入っていった。
扉がゆっくり閉まる時、大和の姿が見えた。夕日で紅くなって、綺麗だった。
そんな大和の額にマイキーはキスをして、腹に耳を当てて抱きしめていた。





―――――

ものの数日で退院して、マンションに戻った。
相変わらず佐野さんは、時々帰ってきて私の中に体液を注いだ。
やることが何もないから、ずっと本を読んでいた。
読み終わった本は乱雑に積み重なっていた。
定期的に回収されて捨てられる。

「大和」
『九井さん。今日は何?』
「うなぎ」
『自分で料理できるのに』
「お前に包丁とか握らせられねぇよ」
『まあ、そうだよね』
「……お前、大丈夫なのか?」
『何が?』
「子供」
『ああ。わかってたことだから』
「わかってた?」
『佐野さんも私も、結晶はいらないんだよ』
「絆だけで、いいのか?」
『うん』
「またできたら、殺すのか?」
『わからない。佐野さん次第じゃない?』
「………お前も狂ってんの?」
『うん』
「どこで狂い始めたんだ?」
『言えない』

お盆を渡されて、床に置く。胡座をかき、本を読みながら今日の食事をする。

「…いつまで続けるんだ?」
『死ぬまで』
「逃げたいとか思わねぇの?」
『特に』
「お前は、マイキーが好きなのか?」
『……』

捨てないで欲しいと言った本から、辞書を出す。

『…心がひかれる。気に入ること。うん、好きだよ、佐野さんのこと』
「そういうんじゃねえ」
『佐野さんは、私が初めて意識した人間だった。じいちゃんとばあちゃんとねこにしか興味がなかったのに、佐野さんは私の許容範囲にすんなり入り込んできて、不快じゃなかった』
「そりゃ、好きより慣れじゃねえのか?」
『…長く経験して何とも感じなくなる。んん…違う、これじゃない』
「違うか」
『長く一緒にいた訳じゃない。会ってすぐに家族になったし、ねこも懐いた』
「猫って、ペットか?」
『ばあちゃんが餌付けして住み着いた猫。ねこって呼んでた。あいつも佐野さんみたいに気づいたら家族になってた』
「ねこ…」
『じいちゃんとばあちゃんとねこが好き以上の存在。世界の全て。私の感情そのものだよ』
「それがなくなって狂ったのか?」
『………そうかもしれない。けど、そうじゃない気もする。私はまだ、佐野さんを殺したいほど憎んだことがない』
「だから、好きだって思うのか?」
『うん』
「そうか」
『九井さんは何をなくしたの?』
「……なんも」
『そう』

食事を済ませて、また本を読む。
九井さんはお盆を持って、部屋を出た。

また時々、佐野さんが来て、私に体液を注ぐ。
何も変わらない世界。何も起こらない世界。いつ死ぬのかな。誰が死ぬのかな。

今日も変わらなかった。
ただ、佐野さんは顔に誰かの血をつけて、生臭い身体で部屋に入ってきた。
初めてだった。
今まで、汚い姿で私に近づいたことはない。
見上げると、少しだけ悲しそうな顔をしていた。

「……大和」
『?』
「もう少し…もう少しで、自由になるから…」
『…』

すがるように私に抱きついてくる。
肩に顔を埋めると、ボソボソと呟いてる。







「来たんだ…だから、もう…」
『…』
「大和…」

離したくない
と、強く私を抱きしめる。
初めて、初めて佐野さんの背中に手を回して、抱きしめ返した。
そして、目尻から涙がひと筋、流れた…。





おわり。書き直すかもしれないし、このままかもしれない。


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