ツイステ夢

□エピソード3
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エピソード3





その子を産んだのは間違いだった

その子にはなんの価値もなかった

その子は私を見つけては、何度も何度も追いかけて来て

――――大好きです。母様


私は、その言葉に答えたことはなかった





『…今のは、何?』

相変わらず寝覚めの悪い夢。
マジカルシフト大会から、少しは落ち着いた生活が続き、寮の整備も片付けも終わった。
綺麗に整えられた部屋は、初めの頃とは比べ物にならないくらい広く感じた。
授業は毎日楽しく、みんなとの生活も充実したものだった。
今日は、期末テスト最終日。特に心配することもなく、のんびり過ごしていた。
机を見ると、珍しくグリムくんが勉強をしている。
こっそり話しかけると、びっくりさせたことを怒られてしまった。グリムくんが勉強するなんて、異常気象でも起こるんじゃないかととても心配になった。





【キーンコーンカーンコーン】

「そこまでだ、仔犬ども。答案用紙を前に回せ」

いえーい!とテスト終わりの解放感で、3人は立ち上がり大はしゃぎをする。クルーウェル先生に叱られ着席した。
点数が悪かった場合、クリスマス休暇が補習でつぶれてしまうとのことで、私は補習でもいいかな。と思っていた。
テストのあとはいつも浮かない顔のはずのみんなは晴れやかな顔をしていて、少し不思議に思っていた。

「ユウは、いつも通りいい感じ?」
『はい』
「実を言うと、オレ様も今回は手ごたえありなんだぞ!」
「ふふん。残念だが、今回は僕も自信がある。この勝負、勝たせてもらうぞ」
「お、いつも赤点ギリギリのやつらよく言うぜ。ま、今回はオレも余裕だったんで負ける気しねえし」
『みんな、勉強頑張ったんだね』
「まあねえ」
「オレ様にかかれば、これくらい余裕なんだぞ!」
「日頃の行いだな」

3人とも自信ありげに胸をそらせて話していた。
私は魔法の授業では役立たずなので、筆記試験だけでもいい成績を残さないとグリムくんに申し訳ない。
元々、勉学に関しては学んでこなかったせいか勉強が楽しい。前の記憶で、文字を読めるようになったのは、王邸に入ってからだ。
人を殺すために必要な知識を得るために。たった数年、学んだこと。楽しいとは思えなかった。
エースくんとデュースくんはテストの疲れを払うように部活へと向かい、私とグリムくんはいつもより早く帰宅した。





それから一週間後。

エースくんのおやつを盗み食いしたグリムくんとエースくんの追いかけっこが始まったが、いつもなら力押しで喧嘩が始まるはずが今回はその前に解決してしまった。
デュースくんと一緒に不思議に思っていたが、とりあえずグリムくんへのしつけとして廊下に座らせ、くどくどと問いただしていた。
最初はそっぽ向いたり、あくびをしたりと聞き流していたグリムくんも、表情を変えずずっと同じ調子で話す私のあまりのしつこさに徐々に顔が曇っていき、最後には土下座しながら謝ってきた。

私は謝って欲しいのではありません。なぜそんなことをしたのか理由が聞きたいのです。そしてしてしまったことに対してどう償うつもりなのでしょう。

聞いていたエースくんとデュースくんも、グリムくんをかばうほど怯えさせてしまったようで。





今日は期末テストの返却日。
みんなは、今まで取ったことがないような高得点を出していて感動していたが、クルーウェル先生は疑問に思っていた。
異常なまでの点数上昇。他の教科でも同じような傾向が見られたので、疑問は深まるばかりだった。

放課後、成績優秀者上位50人が廊下に貼り出されるということで、一斉に飛び出して行った。
今期テストの平均点は90点以上。その時点でおかしいはずなのに、なんと上位30人以上が満点という快挙。
快挙なはずなのに、疑問しか残らない。
3人の名前はなく、落ち込んでいるのかと思ったが、そういう表情ではなく、焦ったような、怯えたような顔をしていた。

「オレ様、50位以内に入ってねえと、"契約違反"になっちまうんだぞ!?」
『契約違反?』
「え、グリム、お前まさか…」
「その顔…エース、お前も…」

3人が顔を見合わせ、言葉を待っていたら、突然頭にイソギンチャクが生えた。

「ふなっ!?」
「グリムもあいつと契約していたのか!?卑怯だぞ!」
『あいつ?』
「そういうデュースも生えてんじゃん!」
「こんなもの〜!いてててて!抜けねえんだぞ!?」
『…いったい何が起きてるの?』
「騒がしいと思ったら、お前らか。何やってんだ?」
『ジャックくんは、生えていない…』
「な、んだと…!?」
「見た目の割に真面目くんかよ…」
「何言ってんだ、お前ら。つーか、それなんだ?」
「これは…ふなっ!?あ、頭が引っ張られる〜!?」
「いでででで!頭もげる!?」
「絶対服従ってこういうことだったのか!?」
『あ』
「イソギンチャクに引っ張られるように歩いてったな。間抜けな絵面だ…」
『…ごめんなさい、ジャックくん。気になるので3人を追いかけます』
「え、おいユウ!?くそっ!俺も行く!別にあいつらやお前が心配でついてくわけじゃねえからな!この意味わかんねえ現象が気になるからっ」
『うん、ありがとう』
「勘違いすんな!」



3人を追いかけると、各寮への入り口の鏡舎にたどり着いた。
そこには3人以外にも頭にイソギンチャクを生やした人で溢れかえっていた。みんな口々に順位の話とインチキタコ野郎と。

「2、3年もいやがる。なんなんだ?」
『タコ野郎って、なんでしょう?』
「さあな。俺たちも行ってみるぞ」
『うん』

鏡を抜けて、向かった先は水の中にある、オクタヴィネル寮。
幻想的な世界に開いた口が塞がらなかった。

「すげえな、ナイトレイブンカレッジって!」
『…はい』
「ユウ、すげえアホ面。くくっ」
『感動ですね…』
「ああ…って、仮にも他の寮の縄張りに入るんだから、気をつけろよ」
『はい』



イソギンチャク軍団に続いて、オクタヴィネル寮への中へと進むと、"モストロ・ラウンジ"というおしゃれなところに集められた。
怪しく光る照明が消え、暗闇に光の筋ができ、見えた先には眼鏡の生徒が現れた。

彼は、アズール・アーシェングロット。
オクタヴィネル寮の寮長で、モストロ・ラウンジの支配人。そして、イソギンチャク軍団の主人。
騒動の原因の中心の人は彼なんだろう。

探していたエースくんがいて、こんなにたくさんの人と契約していたなんてと、アズールさんを詐欺師と呼んでいた。
そこにいた人全員が賛同したが、そもそも他の人とも契約をしているなんて言うわけがない。守秘義務というものがある。
アズールさんの言ってることはもっともで、太刀打ちできそうにもない。
何より契約の担保が、大切な魔法ということに、私はみんなに少し腹が立った。
私の気持ちを知ってか知らずか、ジャックくんがみんなを叱咤した。

「おや?あなたは…イソギンチャクがついてないですね。部外者はお引き取りください」
「部外者?俺は、自力で勉強したやつらと真っ向勝負したかった。それを台無しにしたあんたが許せねえ!」
「ジャック!ユウ!オレ様たちを助けに来てくれたんだぞ?」
「勘違いすんじゃねえ。俺はここにいる全員が気に入らねえんだよ。取引を持ち掛けたやつも、取引に応じたやつも。おい、ユウはなんか言うことねえのか」
「ユウ〜」
『……私は、悔しいです』
「ユウ?お前は怒ってねえのか?」
『怒ってます。怒ってますけど、それ以前に、あなたたちなんかが魔法を使えて、私が使えないことが、悔しい…』
「ユウ…」
『なんで…なんで、欲しくても手にできない人がいるのに…絶対に、手に入らないのに、そんな簡単に他人に渡せるの…』
「い、いや…それは、」
「ぼ、くは、留年したくないから…」
「オレ様も赤点はもう嫌なんだぞ…」
『そんなの、勉強すればいいじゃないですか。私は、勉強しても、何をしても、魔法が使える日なんて、こないのに…みんなが、羨ましくて尊敬していたのに…』
「…ユウ。お前の気持ち、痛いほどわかったから」
『…嫌いです』

消え入りそうな声でつぶやく。悔しくて、悲しくて、泣きたい気持ちを抑えたくて強く手を握り締めていたら、爪が手のひらに食い込んで血を流していた。
ジャックくんがそれに気づいて、私の手をほどいてくれた。力が入らない私の腕はだらしなく下がり、血が一滴、滴った。
私の代わりに泣いてくれているようで、すっと気持ちが落ち着いた。
そんな姿を見たグリムくんが、実力行使だとアズールさんから契約書を奪い取ろうとしたら、以前会ったリーチ兄弟。ジェイドさんとフロイドさんがアズールさんをかばった。
イソギンチャク軍団とアズールさん、ジェイドさん、フロイドさんが闘い、カフェが混乱した。




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