過去拍手

□21代目〜25代目
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1人でお留守番〜登也くん4才の場合〜


「あっ!!しまった!!」

買い物から帰ってきた神楽は、玄関の鍵を開けるなり唐突に声を上げた。

登也は、そんな母を不思議そうに見上げる。

「おかあさんどうしたの?」

「さーちゃんのオムツ買ってくるの忘れちゃったアル…登也ごめんネ、もう1回お買い物行こう」

「うん、いーよ」

初夏の日差しが照り付ける中で子ども2人を連れての買い物はかなりの体力を消耗するが、仕方ない。

屯所に連絡をして帰り際に買ってきてもらうよう頼む事も出来たが、仮にも真選組一番隊隊長である自分の夫が1人スーパーに入り紙オムツをぶら下げて帰ってくる様は、何と言うか…神楽としてはあまり見たくない光景だったのだ。(当の本人は多分喜んで買って来るだろうけど)

「と、その前に買ったもの冷蔵庫にしまって、布団も取り込んで、ついでに洗濯物も畳んで…」

再び靴を履こうとした神楽は、自分が手に持っているスーパーの袋と朝干した布団の存在を思い出し、一先ず台所の方へと向かった。

登也も靴を脱いで母の後へと続く。

冷蔵庫の中へ食材をしまう神楽の額にはうっすらと汗が滲んでいた。

まだ2才になったばかりの沙綾は、神楽の背中ですやすやと寝息を立てている。

そんな母の姿を見て、登也は先日見たテレビ番組の事を思い出した。

「ねえおかあさん!ぼくいいことおもいついちゃった!」

「なーに?マミーに話して聞かせてヨ」

「さーちゃんおんぶしたままでせんたくもの、たいへんでしょ?」

「ん?んー…でもちょっとだけだし、平気アルよ?」

「でも、もしもおかあさんがはやくいってはやくかえってこれたら、そのあとさーちゃんねかせてゆっくりたためるでしょ?」

「うーん…まあ、そうアルな。でもどうしてそんな事言うアルか?」

食材をしまい終えた神楽は、冷蔵庫の扉を閉めて登也に向き直った。

「ぼく、おるすばんしてるよ!」

「…お留守番?1人で?」

「うん!」

キラキラと目を輝かせる息子とは反対に、神楽は突然のお留守番宣言に目を丸くした。







10分後







「じゃあ、マミー行ってくるけど…本当に大丈夫アルか?やっぱり一緒行く?」

玄関先で登也と目線を合わせるようにしゃがんだ神楽は、心配そうに問い掛けた。

「だいじょうぶ!」

「でも、登也がベビーカーに乗れば、マミー早く行って早く帰って来れるヨ?」

「それじゃおかあさんのにもつがふえちゃうでしょ!もー、しんぱいしょーなんだからー」

いつもなら自分が夫に言うその台詞を聞いた神楽は、思わずくすりと笑みを零した。

「…そっか。わかった!じゃあ、もう1回おさらいネ?」

「うん!」

「3時のおやつは?」

「れいぞうこのなかにプリン!」

「電話がかかったら?」

「はい、おきたです。おかあさんとおとうさんはいまいません!」

「1人でお外には?」

「いかない!」

「お家のピンポンが鳴っても?」

「でない!」

「最後に、1人でお留守番出来る人!」

「はーい!」

「よく出来ましたー!」

「えへへー」

くしゃくしゃと柔らかい髪を撫でると嬉しそうに笑う息子を本当に愛おしく感じつつ、神楽は立ち上がった。

「じゃあ、行ってくるネ」

玄関のドアノブに手をかける。

「うん!いってらっしゃい!」

ドアを開け1歩踏み出す。

「はい、行ってきます!」

そして完全に身体が外に出てから登也から視線を外した。

その時、

「…あ、」

「ん?」

背後から聞こえた小さな声に思わず振り向いた。

「…」

「どうしたアルか?」

振り向いた先にはさっきまでの笑顔がなく、神楽は玄関先へと戻る。

少しだけ俯いて両手でもじもじと手遊びをする登也の顔を覗き込むようにしてしゃがむと、登也は小さな小さな声で話し始めた。

「…おかあさん、あの、ね、」

「うん」

「…ぼくいいこにしてるね」

「ふふ、登也はいつもお利口さんだけどネ」

「あと、トイレもひとりでできるよ」

「うん。すごいアル!」

「あとね、」

「うんうん」

「こわくなってもちゃんとがまんするね」

「…」

「なかないでまってるね」

「…」

「だから、ね…」

「…」

「…はっ、はやく、っ、かえって、きてっ、」

「…もーーー登也あー!!何でそんな可愛いアルか!?泣かないでヨ!やっぱりマミーと一緒行こ!?」

自分譲りの青い瞳から大粒の涙がこぼれ落ちた時には、神楽は堪らず小さな身体を抱きしめていた。

「う、ごめ、なさっ、やっぱりひとりでおるすばん…、できない、」

謝りながら服の裾をぎゅうぎゅうと握る登也に、ぶんぶんと首を振った。

「いいの!全っ然いいの!登也は悪くないアル!!1人でお留守番なんてすぐ出来るようになるからネ!!はいお靴はいて!」

「ほんと…?」

「もっちろんアル!じゃあ、お買い物行こっか?」

登也の涙を拭き取りながらにっこり笑うと、登也もまだ少し目に涙を貯めながらにこりと笑った。

「…うん!おかあさん、あのね、ぼくねえ、おかあさんだいすき!」

「マミーも大好きアルよー!」






























何でも1人でやってみたいお年頃。でもやっぱり1人は寂しいお年頃。

息子の涙に、お母さんは我慢出来ませんでした。
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