13vol.2

□悪夢の褒美
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【悪夢の褒美】





何度も歴史を繰り返しながら
全ては上手く進んで
誰もが笑顔に戻れる未来が
すぐそこまで来ていると


信じていた…













時詠みの力で未来を視てしまった
セラさんの最期を看取るまでは












「ライトさん……貴方の願いは叶いましたか?」

導きの結末は…
皆が笑顔で手を取り合う風景じゃなかったんですか?


ヴァルハラの混沌があふれ出した世界で
ホープたちはまだ戦っていた







「ノエル君。予言の書とゲートを深く調べているうちに、僕の中で1つ仮説が立ちました……」

「仮説?」

「ライトさんがいるヴァルハラへの道です」

「…本気か?崩壊した不可視の世界だぞ?そんなのありえない。それにゲートはとっくに閉じてる」

「ヴァルハラは時の流れが無い。当然、僕たちの世界と交わる事は無かった…そこに、ヴァルハラに繋がったゲートの要素を加え、崩壊を機にこちらから時空を裂き、擬似ゲートを作り出す」

「…こんな不安定な世界で、無茶だ。それにライトニングはカイアスに…」

「僕は自分の目で見た事しか信じない。可能性があるなら……賭けたいんです」

「なら、俺も行く」

「ノ、ノエル君!危険です」

「それならお互い様じゃないか」

「不安定な時空に、成人男性が2人も入り込んだら…何が起こるか」

「…………帰って来られるのか?」

「……………それは」

「約束」

「え?」

「帰って来るって、約束。じゃなきゃ行かせない」


ノエルは小指を立てて、ホープの前にずいと付きだした
その小指に、自身の小指を絡め、上下に強く揺さぶる
ホープは笑顔でこう答えた










約束する…と










時空の狭間にゆられる中で
ホープは一人考えていた
幸せについて

自分にとっての幸せとは
ライトさんやセラさんにとっては
みんなや、世界の人達にとっては
エトロやカオスにとっては

結局…全ての答えはでないまま
辿り着いた場所で目を覚ます

ただ、確かな己の幸せだけを胸に









「…起きろ、ホープ」

呼ばれて、本能的に重い瞼を押し上げる
懐かしい声だった

「ライト……さん?」

「お前はどうしてこんな無茶をする」

はっきりと姿を捕らえることはできなかった
だけど、不思議と恐怖感は無く
暖かな空気に包まれていた

「無茶…そんなの、僕だけじゃない」

みんな…みんな無茶ばっかで
自分たちの信じる幸せな未来のために、歩んでいたんです
知っているでしょう?

「ここに辿り着くまでの間……自分やライトさんの幸せについて考えていました。そうしたら…その答えは単純で」

「ホープ…」

「僕は…幼い頃から変わらず…貴方の側に居たい。それだけで……」

それは
過去に戻って、戦いを終え、コクーンを見上げた時だっていい
居なくなってしまったライトさんが帰って来る時だっていい
女神の神託を得たライトさんが全てを終えて目覚める時だっていい

そんな時に、僕は、貴方の側に居たかった

急に、体中の力が抜けていくのが解った
暖かな何かに抱えられたと思い
視線を上げると、ライトさんの顔がすぐ側にあった
予言の書で見た時より増して、神々しく見えたきがした

「ライト…さん」

「私が還る時……お前は迎えてくれるんじゃないのか?」

「……ごめんなさい」

この場に辿りつくかは、本当に賭けだった
時空の狭間に取り込まれて、この身が持つ程の計算は元々無かったのだ
少しだけ身体に寒さを感じる

「でも、ライトさんも……悪い人です。なかなか帰ってこないから……待ちくたびれ……ました」

「ホープ!?…しかっかりしろ!目を開けるんだ!!」

「これが…僕にとっての幸せ、だし。後悔しない…選択で…得た……僕の……」


僕の……居場所
でも本当は…
特別な奇跡なんて…要らない


「ただ…貴方と……共に…生きたかっ、た」

「ホープ……」




動かなくなったホープを抱え
ライトニングはその唇に親愛のキスを落とす

「私の個人の願いは…ひとつ、叶えられた。お前の……お陰、だな」

ホープの額にかかる銀髪をすくい上げ、ふいにこみ上げる愛おしさに
胸が締め付けられ
静かに涙を流した



私は二度目の生を受けながら
何も変えられず
大切な者も守れず…戦いに敗れ
また眠りにつく

望まぬ運命に翻弄され
望まぬ力を得た者たち
女神が褒美と謳うこの存在
悪い夢は…再び廻り始めているだろう

セラが視た…未来を迎えるその日まで
さよならだ









気がつくと、目の前には心配そうにしゃがみ込むノエルが居た

「僕は…生きて、る?」

「生きてるよ。見たところ、怪我も無さそうだ……。こっちの時間じゃ、まだ1分も経ってない………ライトニングに会えたか?」

目覚めると、さっきまで感じていた身体の寒さが消えていた
直感で、ライトさんのお陰だと思った

「うん………会えたよ」

「本当か!?」

「よく…憶えてない…けど。無茶するなって怒られて…それから…………泣いていた」

「……うん」

「それでも、自分の目で見たことだから……僕はライトさんの生存を信じてる。希望は…捨てない」

その言葉に、ノエルは強く頷いた





未来を視たセラさんは
最期に「ありがとう」と言ったという
本当にこれから先
ありがとうという言葉に見合う
未来があるのだろうか

神々の力に翻弄された僕たちに
望む未来が得られるのだろうか

希望の光は未だ闇に包まれている



end

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