13vol.2

□二つの心音
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【二つの心音】





ヴァイルピークスの夜は寒さが増す

訓練で駆除活動に幾度か訪れたことがあったが、まさかこんな形でこの地にこようとは
ライトニングも予想していなかった

しかも、連れは警備軍の仲間ではなく
14歳の小さな子供


「寒さを凌ぐにはこれが一番手っ取り早い」

言われたホープは開いた口がふさがらなかった
決して十分とは言えない布切れ1枚
2人が夜を越すためにライトニングは真顔で迫る

「で、でも…」

「ホープ。体調を崩されて足を引っ張られるのはごめんだ」

「………大丈夫、です」

少し嫌味を含んだ言い方に、ホープは少しだけ抵抗を見せた
ライトニングは一度大きくため息をつき、俯くホープを無視して腕を引くと
自分の胸元へ引っ張った
予想だにしない展開に、ホープの身体はバランスを崩し簡単に納まってしまった

「ラ、ライトさん!」

「うるさい、明日も早いうちに行動するんだ…」

「こんな状態で寝られるわけっ…」

急に飛び込んだライトニングの香りに、心拍数は跳ね上がる
けれども、すぐに安堵が訪れる
母親離れをしてもう何年だろうか…こうして、抱かれて、家族川の字で寝ていたのは何歳までだっただろうか…
ライトニングの体温から、思い出が溢れ出す
少しだけ、ライトニングの服にしがみ付き目を閉じた

「子供の体温は高くて助かるな…」

「(母さん…)」

「寒くないだろう」

「…は、い」

のどの奥が詰まったように、声が上手く出ない

「何かあったらすぐに起こす……それまでは安心して寝ていい」

もう声が出せなくなったホープは、ライトニングの胸へ頭をうずめるようにしてうなづいた
しばらく、不規則な息継ぎが続く
気づかれないように、と声を押し殺した小さな肩が震えるたびに
ライトニングは落ち着かせるように肩をたたいた







ライトさんの心音が聞こえる…

トク…トク…トク…

僕より少しゆっくりに刻まれる音

心地いいリズム







やがて規則だたしい寝息をたて、ホープが眠りについた事を確認するライトニング
ここ数日はろくに眠れていなかったようで、眠りも浅く、夢を見ては母親を呼ぶような寝言を口にしていた

「お前も…闘っているんだな」

足手まといだ、と言ったものの
やはり簡単に置いていくことはできなかった
あの時のホープの瞳が、あまりにも自分と重なって見えたのだ

セラのために早く大人になりたくて、自分の名前を捨てた
過去の自分に






闘います

迷わないです

僕、頑張ります。だから…






あの言葉が、ホープにとってどれだけ必死で重く辛い言葉だったのだろう…
セラの未来を
自分の未来を
この子の未来を
私は守れるのだろうか…
守ってやれるのだろうか…



「ライト…さ、ん」

寝言だろうか
ホープは眉間に皺をよせて呟いた

「置いて…いかない、で」

ライトニングは無意識にホープを抱き寄せる

「大丈夫だ…置いていくものか」

温もりを受け止め、そっと目を閉じる
できるかできないかじゃない
そう自分の信念に言い聞かせる









トク…トク…トク…

少し早く刻まれる音

心地よさから瞼がなかなか上がらない

久しぶりに眠りに落ちてしまっていたようだ


「ライトさん…おはようございます」


呼びかける声に慌てて見上げるライトニング
寝る前と逆に、すっかりホープに寄りかかった状態になっていた




なぜだろう…

不思議と感じた眼差しと温かさに

しばらく言葉が出なかった



「………おはよう」



ルシになりそんな言葉を言える状況じゃないことぐらい分かっているはずなのに

「寝られたか?」

「はい。いつもよりは……、だから、今日は昨日よりも長く歩けます」

「そうか…」

ライトニングは立ち上がり、出発の準備をする
武器の動作を確認すると、焚火の跡を足で散らした

「行くぞ」

「はい!」







やってやるさ…


己の力が尽きるまで
ホープを守っていきたい
無意識にそう思い始めたのは、この頃からだったかもしれない




end

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