13

□静かなる炎
1ページ/1ページ

【静かなる炎】





ときどき思う

僕にまだ、ルシの力があったなら

ライトさんを守る事が出来るのに、と

貴方に立ちはだかる全ての存在を、焼き払う事だって





聖府という秩序を失ったこの世界は変わり始めている





「ライトさん…」

「このぐらい…どうって事ない」

そんなはずがない


各地で起こる暴動の掃討作戦に参加しているライトニング

その身体を引きずるようにして帰って来る彼女を見て
あの思いは強くなる一方だった















僕たちは…

こんな風になるために

闘ったんじゃない




僕たちの起こした奇跡は…

こんな世界の為じゃない














「どこかに出掛けるのか?」

「はい…ちょっと、無くした物を探しに行きたくて」

「捜し物か?」

「はい…」


もう、こんな風に話すことなんてできないかもしれないけれど
それでも、彼女がこんな日常から解放されるなら





大丈夫だと思えた






「早く、帰ってこいよ」
ドアが閉まる寸前
その声に、僕は返事をしなかった























グラン=パルスに降り立ち
警備軍の目を盗んで抜け道に出る

昨日今日この地に降りた人間とは違う
ホープにはこの地を歩いた強みがある


半日かかってようやく辿り着いたのは、彼女たちが眠る場所
その真下に膝を着き、見上げると、光を乱反射した幻想的な世界が広がっている
今広がる悲惨な現実を映すことを許さない透明さ

「ヴァニラさん、ファングさん……僕に、力を貸してください」


ホープは祈るように語りかけた


「今の世界になって改めて分かった事があります。僕は、子供でした。何の力も持たない、子供……傷ついて帰って来るライトさんを、守ることもできない……」


悔しさがにじみ出て、ホープは地面に拳をたたきつけた


「変化の世界に、苦しいと声を上げることしかできない…ただの、子供でした」


「僕はこんな世界、望んではいません!!…2人が、多くの人が犠牲になって残った世界が……こんな世界なんて…許せないんです!!」



「ライトさんの辛そうな顔…これ以上見なく無いんです」


母さんの顔が浮かんだ

父さんの顔が浮かんだ

ヴァニラ、ファング…

スノウ、セラ、サッズ、ドッヂ…

レインズ、ノラ、パージを受けた人たち















滅ぼす力なら、救う力にだってなれる


















「こんな世界なら…僕は、いらない。僕にルシでいた頃の力があれば………あんな奴ら、一瞬で」





後ろから、足音が聞こえて
振り向くと同時に頬に鋭い痛みが走った
軽く頭が真っ白になり、頬を抑えながらゆっくりと立ち上がる


「ライト…さん」

怒りに満ちた瞳の色が近づいて、また頬を叩かれた



「様子が変だと思って、付いて来てみれば…。お前は…間違っている」



そんな事…分かっている



「あの闘いで解ったはずだろう…理想や夢が、簡単には手に入らない事を。だけど絆や人の想いで、乗り越えて行ける強さを持つ事を……お前は忘れたのか?」


「今の僕は…ライトさんに何もしてあげれない」


「だから、他人に頼るのか?そんな奇跡……私はいらない」


じゃあ、僕はどうすれば?
大好きな人の力にもなれず
いつまでも子供のままで…


「人は、変わろうとしている。だから、私は…私のできる限りの力で、それに立ち向かう。焦ることはない………ホープも、自分で出来る事がきっとあるはずだ」


「僕に…出来る、こと」


「今の私には…お前が側に居てくれる事が……何よりの力になる。それを忘れるな」


今度は優しい声色で囁かれ、頭を撫でられる
包み込むように抱きしめられた


涙が溢れた
自分の未熟さと、憤り、怒り、不安
ライトニングの強さと、厳しさ、暖かさに触れ
今までの気持ちが全てあふれ出した

そして、ごめんなさい。と繰り返すホープの背中を
ライトニングは泣き止むまでなで続けた










顔を上げると、今度は頬を指で抓られる

「い、痛いです…ライトさん」

「これは…早く帰って来なかった罰だ」

「ご、ごめんなさい」





彼女を守る事

僕は、僕の力でやってみせる

闘ってみせる





「さぁ、帰るぞ」


「はい!」






振り向くと、2人の笑い声が聞こえた気がした







end

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ