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□静かなる炎
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【静かなる炎】
ときどき思う
僕にまだ、ルシの力があったなら
ライトさんを守る事が出来るのに、と
貴方に立ちはだかる全ての存在を、焼き払う事だって
聖府という秩序を失ったこの世界は変わり始めている
「ライトさん…」
「このぐらい…どうって事ない」
そんなはずがない
各地で起こる暴動の掃討作戦に参加しているライトニング
その身体を引きずるようにして帰って来る彼女を見て
あの思いは強くなる一方だった
僕たちは…
こんな風になるために
闘ったんじゃない
僕たちの起こした奇跡は…
こんな世界の為じゃない
「どこかに出掛けるのか?」
「はい…ちょっと、無くした物を探しに行きたくて」
「捜し物か?」
「はい…」
もう、こんな風に話すことなんてできないかもしれないけれど
それでも、彼女がこんな日常から解放されるなら
大丈夫だと思えた
「早く、帰ってこいよ」
ドアが閉まる寸前
その声に、僕は返事をしなかった
グラン=パルスに降り立ち
警備軍の目を盗んで抜け道に出る
昨日今日この地に降りた人間とは違う
ホープにはこの地を歩いた強みがある
半日かかってようやく辿り着いたのは、彼女たちが眠る場所
その真下に膝を着き、見上げると、光を乱反射した幻想的な世界が広がっている
今広がる悲惨な現実を映すことを許さない透明さ
「ヴァニラさん、ファングさん……僕に、力を貸してください」
ホープは祈るように語りかけた
「今の世界になって改めて分かった事があります。僕は、子供でした。何の力も持たない、子供……傷ついて帰って来るライトさんを、守ることもできない……」
悔しさがにじみ出て、ホープは地面に拳をたたきつけた
「変化の世界に、苦しいと声を上げることしかできない…ただの、子供でした」
「僕はこんな世界、望んではいません!!…2人が、多くの人が犠牲になって残った世界が……こんな世界なんて…許せないんです!!」
「ライトさんの辛そうな顔…これ以上見なく無いんです」
母さんの顔が浮かんだ
父さんの顔が浮かんだ
ヴァニラ、ファング…
スノウ、セラ、サッズ、ドッヂ…
レインズ、ノラ、パージを受けた人たち
滅ぼす力なら、救う力にだってなれる
「こんな世界なら…僕は、いらない。僕にルシでいた頃の力があれば………あんな奴ら、一瞬で」
後ろから、足音が聞こえて
振り向くと同時に頬に鋭い痛みが走った
軽く頭が真っ白になり、頬を抑えながらゆっくりと立ち上がる
「ライト…さん」
怒りに満ちた瞳の色が近づいて、また頬を叩かれた
「様子が変だと思って、付いて来てみれば…。お前は…間違っている」
そんな事…分かっている
「あの闘いで解ったはずだろう…理想や夢が、簡単には手に入らない事を。だけど絆や人の想いで、乗り越えて行ける強さを持つ事を……お前は忘れたのか?」
「今の僕は…ライトさんに何もしてあげれない」
「だから、他人に頼るのか?そんな奇跡……私はいらない」
じゃあ、僕はどうすれば?
大好きな人の力にもなれず
いつまでも子供のままで…
「人は、変わろうとしている。だから、私は…私のできる限りの力で、それに立ち向かう。焦ることはない………ホープも、自分で出来る事がきっとあるはずだ」
「僕に…出来る、こと」
「今の私には…お前が側に居てくれる事が……何よりの力になる。それを忘れるな」
今度は優しい声色で囁かれ、頭を撫でられる
包み込むように抱きしめられた
涙が溢れた
自分の未熟さと、憤り、怒り、不安
ライトニングの強さと、厳しさ、暖かさに触れ
今までの気持ちが全てあふれ出した
そして、ごめんなさい。と繰り返すホープの背中を
ライトニングは泣き止むまでなで続けた
顔を上げると、今度は頬を指で抓られる
「い、痛いです…ライトさん」
「これは…早く帰って来なかった罰だ」
「ご、ごめんなさい」
彼女を守る事
僕は、僕の力でやってみせる
闘ってみせる
「さぁ、帰るぞ」
「はい!」
振り向くと、2人の笑い声が聞こえた気がした
end