13

□見えない知らない
1ページ/1ページ

【見えない知らない】


「うわ……どうしよう」

と思っても、今更戻っている暇も無い
ホープは時間を気にしながら
ギリギリでスクール行きの列車に飛び乗った





「おはよ。お前、先週もこんな事してなかったか?」

「あ、あはは。おはよう……寝坊、しちゃって」

飛び乗った車両にはクラスメイトが居て、寝癖だらけの髪にツッコミを入れられる

「今期から生徒会になっても、どっかヌけてるな…」

「あ…、そうだ。今日僕早番だったんだ」

さらに重大な事に気づき、ホープは扉にゴチンと額を打った

「ネクタイしてないし…大丈夫か?どんだけ焦ってたんだよ」




ネクタイは多分、ライトさんちの寝室だ
ライトさんは今日は非番の日だし
まだ寝ているだろう


トンネルに入り、真っ暗な外を見つめる
ガラスに映った自分の姿を見て、寝癖を直す

ふと、首もとに目が行き
うっすらキスマークが付いていることに気づく
慌てて首を押さえ、周りに見られていなかったか確認をすると
友達は申し訳無さそうに笑う

「いや、その…つっこんでいいか迷って…ソレ」

と、ホープの首もとを指す

真っ赤になるホープ
それは恥ずかしさから
そして、昨晩の彼女を思い出したから

















「ホープ先輩!」

「何?」

「今日の放課後、生徒会の集まりないですよね?」
彼女は今期生徒会に入った1つ下の後輩
誰にでも気さくに話す、明るい子だ

「うん、会長がどうしても外せない用事があるって言ってたよ」

「じゃ〜、放課後お買い物に付き合ってもらえませんか?明日お兄ちゃんの誕生日でプレゼントをあげたくて。でも、男子ってどういうのが好きか分からないし、先輩にアドバイスして欲しいんです!!」

「僕とお兄さんが同じ趣味かどうか…分からないけど…それでも大丈夫?」

不安げに答えると、彼女はにっこり笑って頷いた

「じゃ〜、終わったら校門で待ってますね!」

「うん、分かったよ」















「あ…」

サイドテーブルにかかっていたのはライトグリーンのネクタイ
ホープの忘れ物だ
どうせ取りに来るだろう、そうぼんやり考えてベッドから起きる

シャワーから上がり、昼食を済ませ
改めてネクタイを見る

今頃ホープは困っているだろうか…
それに、もし今日寄れない時は明日もネクタイが無い…
ストックが有るか聞いた方がいいだろうか

それよりも、非番の自分が届けに行こうか…














約束の放課後
ホープは急いで校門へ向かう
玄関を出ると彼女はすぐに見えた

待たせてはいけない、と走り出す

彼女が気づきそうになり、声を掛けようと手を挙げた


「ホープ」

校門の支柱の反対側から声がした

「ライトさん!?…え!?どうしてここに」

「お前が私の部屋にネクタイを忘れて行ったから届けに…」

「そんな…今夜寄って帰るつもりでいたんですよ!ひと言メールでも入れてくれれば…」

「あぁ…すまなかった」





「あの〜。このお姉さん。どちらさまですかぁ?」

その声に、嫌な予感しかしないホープはゆっくりと振り向いた

「あ、あの…ライトさんは僕の…」

「私はホープ先輩と同じ生徒会で後輩です。これからデートの約束してるんです!」

「え?デートって何!?」

「そうか…引き留めて悪かった」

「ちょ!!ライトさん!?」

自分の腕を引っ張る彼女と
自分を置いてさっさと行ってしまうライトニング



「悪かったな…邪魔して」

振り返り、とどめのひと言






駄目だ
今、ライトさんを行かせては…




ホープは彼女に頭を下げる
「ごめん。ライトさん追いかけなきゃ」

「先輩…」

「お兄さんには、心がこもっていれば、きっとなんでも喜ばれるよ!!」

「え、ちょ…せーんぱーーーい!!!」














「ライトさん!!」

後ろ姿を見つけて叫ぶ
振り向いてくれない

怒ってる証拠だ…怒ってる
怒って…る?


やっと追いついて、腕を掴む
強引に振り向かせてもう一度名前を呼ぶ

「約束は…どうした」

「断りました」

「どうして」

「どう…って。なんとなく…ライトさんを追いかけなきゃって…感じて」

取った腕を振り払われる

「怒ってます?」

「怒ってない」

「もしかしてヤキモチですか?」

「なっ!!?……何を根拠に」

一発で当てられたライトニングは真っ赤になって
また先に歩いてしまう















「ネクタイ…届けてくれて、ありがとうございます。……嬉しかったです。」

「気にするな…それは」

最寄りの駅を過ぎてもライトニングは歩き続ける
ホープは黙って後を歩いた


「ホープは…生徒会なのか?」

「あ、はい…今期から。今日早番なのすっかり忘れていましたけど」

そうか、それで最近朝バタバタして出ていくのか

「学校、忙しそうだな。私の前じゃ、いつもそんな風じゃないだろう」



私が知らない、ホープが居る
歳も、置かれている環境も違う

知らない事があって当たり前だ
現に、軍内部の仕事をホープが知る機会も無い

当たり前なのに

私は……




「そんなの、ライトさんの前だからに決まってるじゃないですか。貴方だけに見せている顔です……他の誰も、知らなくていいんです。僕だってライトさんにヤキモチ焼いているんですからね」

後ろから抱きしめられて
耳元で囁かれる声が
くすぐったい

「だから、ライトさんと2人きりで居るときの僕は……貴方だけのものです」


「…ホープ」


「僕と2人きりで居るときのライトさんも……僕だけのものだ」

さらにきつく抱きしめられ
ライトニングはその腕に手を添えて
目を閉じた







見えない現実は怖い
知らない現実も怖い


でも、大丈夫


伝えあう、努力と
2人の絆があれば




end

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ