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□烏兔怱怱
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【烏兔怱怱-ウトソウソウ-】
できれば僕もライトさんを守れたらって。
抱きしめたホープから発せられた控えめな声。
嬉しさと恥ずかしさがこみ上げ、それを隠すようにホープの額を小突いた。
あの時ライトニングは誓った。
何があってもホープを守ると。
共に歩みを止めるまで、
それが…シ骸へと成り果てる運命だったとしても。
✳︎
誰かに呼ばれた気がして、ハッと目を覚ます。
だんだんと鮮明になる視界に、銀色の影が現れた。
「すみません、起こしてしまって…この前貰ったカギで、入りました」
「そうか、……気にするな」
懐かしい夢を見ていた。
まだ、幼かった頃のホープの夢。
「ライトさん、夕飯はまだ…」
「あぁ…」
「よかった、今すぐ作りますから、待ってて下さい」
制服の上着を脱ぎ、腕まくりをすると、ホープは手際よく料理を始める。
待っていろといわれたが、それもなんだか悪い気がして、ライトニングはキッチンへ向かった。
「ライトさん、辛いのは大丈夫ですか?」
「あぁ、平気だ…」
ホープの背中に声を返す
「この前、父さんにも作ってあげたら絶賛されたから、ライトさんにも食べてもらいたいな、って」
「そうか、それは楽しみだな…」
彼の小さな心遣いに嬉しくなり、自然と笑みがこぼれる
ふと、ホープの荷物に目が行く
最終学年を迎えた歳、様々な資料とプリント類が鞄から覗いていた
〈最終進路希望〉と書かれているプリントを引き抜く
「コクを出すために、隠し味にはちみつを入れていて…」
「ホープ、これは何だ?」
「はちみつですか?」
「違う、これだ」
ライトニングはホープの手を止め、〈最終進路希望〉の紙を突きだした
「………………昨日、提出した。控えです」
ばつが悪い顔を見せたホープ
「進学じゃなかったのか?」
「父さんにはもう許しを貰いました」
ライトニングを見ずに、素早く調味料を入れる
その態度が気に障って、ライトニングは火力スイッチを消した
「何するん」
「お前。この職の事分かっているのか?」
「3ヶ月くらい前から調べました。父さんにも手伝って貰って、大体の事は把握できてると思います」
なんでこんなにも冷静でいられるのか
そして、どうしてこんなにも腹立たしいのか
「この仕事は危険だ!!!新設されて間もない機関だ、国の保障もまだ充分に整っていない…そんな状態でグラン=パスルに行くなんて」
「僕は、グラン=パルスをこの足で歩き、この目で見てきました。この仕事は、その経験を生かせると思いました」
「もしも、何かあった時…」
「大丈夫ですよ」
「誰がお前を守るんだ!!!!」
不安と怒りが沸騰し、声を荒げるライトニング
その声に驚き、一瞬翡翠色の瞳が揺らぐ
その後は、決まってホープの謝罪の言葉が降ってくる…
はずだった…
「僕は、もうライトさんに頼らなくても平気です」
揺るぎない瞳に、ライトニングは頭が真っ白になる
「ホー、プ…」
「子供扱いは辞めてください…」
傷つけた
そう気づいた時にはもう遅かった
「これ、温め直して食べて下さい…。じゃあ、僕はこれで…」
止める隙さえ与えられず、ライトニングは一人残された
いっそう、泣くなり怒るなりしてくれればよかった
冷静に対処された事に、酷く動揺してしまった
「私は…何をしているんだ…」