何のつもりだと、優雅にソファで紅茶を飲んでる女を睨み付ければ、女は視線に気づき口端をゆったりと上げた。ヤツの首もとには先日ルパンが欲しいと言っていたネックレスが輝いている。

ここに不二子がいるのは100歩譲って良しとしよう。
どうせまたルパンをたぶらかしに来たに違いない。この女のために仕事するなんざまっぴらだ。この前のように全力で拒否してやる。

「…帽子……被らないの?」

ふふっと笑って不二子は紅茶を机に置いて両肘をついた。自然とオレに対して上目遣いとなる。しかしそんなポーズをされてもオレには怒り以外の感情は沸かないわけで(あのバカは引っかかるのだろうが)
チクショウ。
ケツの違和感にイライラする。

「やっぱりコレはお前の仕業か」

性悪女め。
思ったが、口に出してもろくなことにならないのは分かっていたので、黙って睨み付けた。手に力が入って持っている帽子がくしゃりと潰れる。

「だって次元ったらルパンの仕事の誘いを断った上に、その仕事の邪魔までしたそうじゃない」

不二子はさっきまで笑みを称えていた口をむくれたように変化させた。

「事前にお前が持ち出した仕事だって分かったからな。お前に横取りされるの分かってて誰が働くか」

ケッと毒づけば、不二子は心底驚いたという風な表情をした。
本当に腹のたつ女だ。
更にイライラしながら、いつものように帽子を被ろうとして手を上げる。しかし寸のところで気づき慌てて手を下げた。もちろん顔は無表情を装ってだ。
帽子がないせいか何だか落ち着かない。
チラリと不二子を見れば、ニコニコというよりはニヤニヤとこっちを見ていた。
――本当に腹のたつ女だ。

「次元がそんなに私のこと嫌ってたなんてねぇ」

不二子は楽しそうに、私も嫌いよ、と付け足した。
当たり前だ。好きあってたまるか。
不二子が何を言いたいのか分からず、オレは取りあえず向かいのソファに腰を下ろす。その瞬間、不二子は机に片足を勢い良く乗せ、腕を組んでオレを見下ろした。その衝撃でカップから紅茶が少し溢れた。先程までの笑みはもうその顔にはない。

「…あんたがルパンを引き止めようとしてくれたおかげでねぇ、このネックレスが私のところに届くの1日遅れたのよ!」

「……はぁ?」

何を言い出すかと思えば…。
オレを嫌いな理由がソレだとでも言いたいのか。
呆れたような視線をやれば、不二子にズビシッと眉間に人差し指を突き付けられた。

「女の一日がどれだけ重要か、まるで分かってないようね。良い?一日あれば金持ちの男とお近づきになってマンションだとか宝石やらプレゼントされるぐいの時間があるの!24時間あったらそれくらいの事ができるのっ!!」

「一日でそんなことができるのはてめぇだけだ」

「その時間をルパンが宝石一つ届けにくるのをひたすら待つことに費やしただなんて…!!」

ありえない。
最後の言葉は声にならずに不二子は頭を抱えた。
よく分からない持論にツッコミを入れたが見事にスルーされたようだ。いや、今はそんなことはどうでもいい。問題は自分の身に起きたことなのだ。

「…分かったから、とりあえずコレ元に戻せ」

「いいえ、分かってません」

ピシャリと言われて言葉に詰まる。だから一体何がしたいというのか。


「ルパンは私が頼んだ用事で3日は帰ってこないわ」


不二子は机から足を下ろすと睨むオレにニッコリと微笑んだ。
その言葉に背中に冷たいものが伝った。

「五右ェ門だっていつ帰ってくるか分からないし?」

「…………」


「私が無駄にした一日を償いなさい」


どこぞの悪役のようにほほほ、と悪い笑みのまま不二子は家を出ていってしまった。つまりあの女は腹いせに嫌がらせをしに、ただソレだけのためにココに来たのだ。
こんな姿のまま外へ追いかける訳にもいかず、次元は途方にくれた。




1.倍返しの嫌がらせ





2日後に帰ってきた五右ェ門は尻尾が生え、犬耳がついた帽子を被ったオレを見て若干、いや、かなり引いていた。説明しようにも何も言うな、よく分かったの一点張り。何が分かったのか。
気まずい空気のまま一日を過ごし、翌日上機嫌で帰ってきたルパンを思いっきり殴っておいた。























次元はその後ルパンに秘伝の薬をもらいましたとさ。ちなみに帽子は不二子特製(耳縫い付けただけ)
尻尾は新原作のアレの術。
催眠術得意な不二子なら自分のものに出来ると信じてる。
素晴らしい術があったもんです。原作万歳。


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