Novel

□美女と宝石と5
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「どうやら善良なお客様ではないらしいですね」

男は拳銃を五右ェ門に向けたまま言った。

「申し遅れました。私、グレン・シーと申します」

目を五右ェ門から逸らさずにグレンは丁寧にお辞儀をした。

「目的は……例のダイヤか。愛しの彼氏は20階ですか?」

「………」

グレンの口元が厭らしく歪む。それでも不自然なほど目は冷たいままだった。
何だ、この男は…!
五右ェ門の背に嫌な汗がつたった。先ほどの男とは全く雰囲気が違う。気配も殺気も冷たく、異常なほど無機質に感じられた。
とにかくこの場を逃げなければ。

ヴーヴー

グレンの携帯が鳴った。グレンの意識が一瞬そっちに向けられた。

「でやぁ―――――!!」

その隙を見逃さず、五右ェ門はグレンの腕に手刀を食らわした。カシャンと拳銃が床に落ちる。間を入れず腹部に拳を入れた。


「……!?」


入ったと思った拳はグレンの左手によって受け止められていた。グレンの右手が五右ェ門に伸びる
ゾクリと悪寒が走った。
逃げなければ…。
五右ェ門はとっさに掴まれている手を振り払い身を引こうといた。しかしそれよりも早くグレンが五右ェ門の首を掴んだ。

「…うっ……」

チクリとした痛みが五右ェ門を貫いた。ぐらりと五右ェ門の視界が歪む。

「ただのコソ泥じゃなさそうですね。…話は後ほどゆっくりと」

せめて一太刀と薄れる意識の中で腕を振り上げたが、ぺたりとグレンの胸を叩いただけだった。グレンの釣りあがった口元を見たのを最後に五右ェ門は意識を手放した。


「大丈夫ですよ……ちゃんとお仲間さんも一緒に連れてきてあげますから」

グレンは五右ェ門を抱え込むと、耳元に囁いた。


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