甘い水

□拍手達
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生命火――いのちび――







どうして僕は此処にいる?

何故、呼吸を繰り返し、身体中に血液を廻らせている?



何故、何故、何故?






闇夜。
月明かりさえも遮断されたその部屋に幼き魔術師は居た。

部屋の隅に置かれた寝台に腰掛け、何をするわけでも無く、ただただ見えもしない左手首を眺めるばかり。



ふと、魔術師の白い右手が備え付けのサイドボードにに伸びた。

さ迷いもせずに暗闇を縫って掴んだ物は殺傷能力は低いであろう、小型ナイフ。



「………」



魔術師は柄をしっかり握ると唐突に先程まで見ていた左手首にその刃を宛てた。




ゆっくりと手前に引いて行く。
その後を追うように紅い線が浮かび上がって行った。



………痛かった。



次々と溢れ出る『生』が、つぅ、と肌を滑り落ちていく感覚に余計に痛みが増した様な気がした。




「そんな虚しい存在確立は辞めてって僕言ったよね」





静寂を破ったのは、この城の主であり、魔術師が属する軍の統率者でもある。



「ユキ……」



色のない声で彼の名を呼ぶと穏やかに笑って魔術師の前まで歩んでいった。



「ルック」



魔術師が名を呼ばれた直後、ユキは屈んで紅く濡れた彼の手首を両の掌で包み込んだ。



「存在が欲しいなら、僕が幾らだって証明するよ」



紅を優しく拭いながらユキは魔術師を見上げた。



「何度だって名前を呼んで、触れて、此処にいることを証明するよ」



最後にそっと切口に触れて、ユキはまた笑った。
少し悲しそうに、笑って。



「だから自分を消さないでよ……」



小さく呟いた。





その時、ユキの背後で彼が持ってきた燭台の火がゆらり、と揺れた。



それはまるで………












捕捉。
ルックには蝋燭の火が「生きろ」と言ってるように見えたんです。
それで生命の灯なんですよ(笑)
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