甘い水
□拍手達
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光陰
緑野広がるその場所で。
何千もの兵士が駆け、その光る刃をもって互いに鮮やかな色をしぶかせた。
それはある意味自然の摂理であり。
正義という形容<かたち>なき名の、刃のもとに拡がる魂の狩合い。
それは。
そこは。
―――戦場。
帝国軍レジスタンス……彼らは自らを解放軍と名乗り若き指導者、オデッサ・シルバーバーグを筆頭に反帝国活動をしてきた。
しかし帝国軍の不意な襲撃に合い、その場に居合わせた子供を庇ったオデッサは、重傷を負い帰らぬ人となった。
最期に新たな希望を見出だして。
彼女が亡くなってからその後を継いだのは、幹部達ではなく一人の少年だった。
名はユキ・マクドール。
彼等が敵と掲げる帝国…それも幾多もの戦場を制してきた強者の中の強者、帝国五将軍の一人、テオ・マクドールの息子であった。
それを知りながら彼女は解放軍の軍主として、彼を選んだ。
誰も彼女の意図は解らない。
こうなることが運命だったのかもしれない。
やがて周囲はテオ・マクドールの息子という存在に期待を寄せ始め、それはやがて大きな希望として育つ。
しかし、ユキは正義も大義も必要とはしていなかった。
彼はただ、親友との約束を守りたかった。
ただ、それだけだ。
それだけが、ユキの願いであり、力だった。
だからこそ、ユキは己の為に強大な力を奮い、戦場を駆けていく。
例えその身体が紅く染め上げられたとしても、彼はただ進むだけ。
その日、解放軍と帝国軍との事実上、初めての戦は解放軍の勝利で幕を閉じることになる。
戦場には数多の亡骸が地に伏せ、勝利を祝う解放軍の雄叫びが響き渡った。
その中で軍主ユキは泣くも笑うこともなく、凛と立ち、ただ真っ直ぐと彼の地を見据えていた。
それは若き英雄が誕生した瞬間であった。