甘い水

□拍手達
8ページ/12ページ


得意分野で愛します






「私を貴方様の妻にして下さいませんか?」






私の名はテオ・マクドール。
黄金の都、グレッグミンスター。
この街に御座す皇帝バルバロッサ様が配下であり、五将軍の一人だ。







この度、妻を迎える事になった。






彼女の名はフィーネ。
このグレッグミンスターで我がマクドール家に次ぐ大貴族の一人娘。
私達は俗に幼なじみという間柄で、幼き頃も良く遊んだものだった。

時が経つにつれて、気付けば私は、彼女に恋情を抱いていたのだが、なかなかにそれを打ち明けられずにいた。

私達の「幼なじみ」という時間はそう短いものではなかったから、その枠から出る事ができなかったのだ。


そんな間柄に終止符を打ったのは、フィーネ。
彼女が好意を抱いているとはつゆとも思わなかったので、それは確かな喜びと大きな衝撃を私に与えた。

雪のように透き通る白い肌に、ぬばたまの髪。
琥珀色の大きな瞳は光を浴びると、玉のように耀きを放ち。
白い肌に添えられた桜色の唇はみずみずしい果実のよう。

令嬢らしく気品に溢れ、また勉学が好きな彼女の教養はそこら辺の男共より高く、よりいっそう『高嶺の花』とされていった。
それ故、街の女性からも憧れの的として慕われ、彼女から学問を教わる者もそう少なくは無かった。


そんな誰もが羨む彼女が、戦に身を置く私に嫁いでくれるとは思わなかったのだ。
皇帝に忠誠を誓い、何よりもあの方の命を優先しなければならない私だから尚のことその様な考えが強かった。


彼女が妻となる事は嬉しいがそれがある為に素直に喜べず、何度も私で良いのか聞いたのだが…。

彼女の返事は常に同じ。



「私はテオ様の妻になります。貴方のように不器用なのにどこまでも真っ直ぐに生きようとなさる方は、私のようにしっかり支えて差し上げる事が出来る女が居ないといけませんから」



その言葉に甘え、私は彼女を妻に迎える事にしたのだが。



「しっかり手綱を握って差し上げますから、ね?」



……少し早まったかもしれない。

その言葉通り、私は完璧に彼女に操られる事だろう。
彼女の最も得意とするもの。


それは乗馬──。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ