甘い水
□唇の先には
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「ちょっと、まだ怒ってんの?」
「・・・当たり前、です」
二人の通う学校の帰り道。
最近はやけに日が暮れるのが早くなった。
時間はいつもと同じだというのに、茜色の空が段々と寒々しい色を纏い落ち始めてきている。
並んで家への道を歩く二人の息も、言葉が漏れだす度に白い霞もまた、漏れ落ちた。
「だから、ごめんなさい。ってさっきも言ったじゃない。いつも一緒に帰るって約束も急に破ったのも悪い、って思ってるし」
先ほどから謝り倒している少年、ユキ。
その隣を苦い表情で歩いているのは、キラ。
二人は恋人同士というもので。
たった今二人がしているのは、所謂、痴話喧嘩というものだ。
事の発端はユキにあった。
つい昨日の事、放課に一緒に帰れなくなったと放課になって急に言うのだ。
たったその一言を放り投げ、慌てて走り去っていくユキに、止める暇もなく呆気にとられるしかなかった。
仕方なく、1人さみしく、のんびり、のんび〜りと帰り道を歩いていると。
ユキと同じクラスのシーナがドラッグストアーから出てきた。
声でも掛けてみようと、駆け寄ろうとした時。
シーナから遅れるようにして、自分の可愛い恋人が店内から出てきたではないか。
ユキだけが買い物をしたようで、その小さな掌には店にロゴ入りのビニール袋がしっかりと握りしめられていた。
それをシーナに見せ、嬉しそうにはしゃぐユキのまあ、可愛いこと。可愛いこと。
いつもならシーナの場所が自分で。
ああやって、上目使いで話し掛けられるのも自
分で。
あんなに可愛いユキを間近で見るのは自分で。
約束をドタキャンされた挙句、友人とはいえ、他の男と会っていたなんて。
ぐるぐるとそんな想いを胸の内でかき混ぜていると、またしてもあっという間に2人は消えてしまった。