縁不暗締

□暗転-凍ノ腕-
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[如]

“彼は正に氷の如く”

あくまで私の感じた結果にすぎないのだが、彼のその生の様はまるで氷だと、そう説明するのが適切なように思われた。
彼を知る人の半分は彼をまったくの善人といい、もう半分は綺麗な顔をした悪鬼だと言う。
誰よりも彼と長くいる私としては、…どうだろうな。双方適切過ぎて選ぶ事もできないな。敢えて言うなら享楽主義者だろう。
彼が善人に見えたなら、その人は彼が救世主に見える状況に追い込まれているからで、その時もちろん彼は綺麗な顔で微笑みながら手を差し出すけれど、その状況自体が彼によって影から作られたものだと助けられた方は一生知らないだろう。
その逆は、まあ言うまでもなく、逆に同じだ。
骨の髄まで彼に遊び倒されて、転げ落ちた髑髏の数を私は数えられない。
髑髏を足で転がし、手に拾った駒の品定をする彼の目は冷ややかなものの酷く楽しそうなので、彼の良き友を心掛けてる私としては彼を止める気は更々ないのだが、いつ彼が後ろから刺されるのかはとてもとても楽しみな賭事だった。勿論賭けているのは私自身を除き皆無なのだが。
腹だろうか、胸だろうか?私のそんな暗い期待を知ってか知らずか、彼のモノとなった非常事態は全くもって異常だった。刃物ではなく、銃器でもなく。天災ではなく、しかしそれは明らかに並の人間に起こることではなく、並の人間に出来ることでもなく。
そんな異常が彼の下を訪れたのは或る朝。…後に彼は自らの身に降り懸かった異常を人に告げる際、こう告げた…

『その朝はまるで氷に漬けられたように体が冷えて、それで目を開けて気付いたんだ…冷えていたのは部屋じゃない。俺の腕が乗った腹の方だって!』

氷のように冷たい男がよく言うと、私としては笑わずにはいられなかったがね。
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