詩創

□雨、青い傘、夜の星空
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『雨、青い傘、夜の星空』





「なんでアンタがここにいるかな・・・」

困った顔をしながら傘を差しているのは、まぎれもなく。

「・・・藤本」

ずぶ濡れの俺を青い半透明の傘の中に入れて隣にいたのは藤本啓太だった。

「めちゃくちゃ濡れてるけど・・・学校帰り?」

尋ねてくる藤本に俺は首を横に振った。
別に帰りというわけでもなく、ただ何となく独りになりたくて街を歩いていた。
考え事をしながら何度も立ち止まって、また歩き始めて。
気が付けばもう歩くことを止めていて、隣には藤本がいた。

「俺はこれから駅に行って、家に帰るんだけど・・・」

そう話しかけて藤本は口をつぐんだ。
俺の顔をじっと見つめて、藤本は一つため息をする。
ため息をつかせているのは、俺のせいだと解っているけど・・・。

「まだ、何か怒ってる?」
「怒ってない」

俺の返事を聞くと、藤本は肩を竦めた。

「俺が悪いんなら謝るよ。けど、何もわからんからさ・・・」

優しい口調で諭すような声で言う藤本に、俺は何も言えなかった。
俯いたまま手をギュッと握り締める。
多分、藤本は悪くない。きっと俺が弱いだけ。
俺は藤本のように優しい人間でもなく、強い人間でもなく、ただ弱いだけ。
自分にイライラしている、なんて藤本に言えるのだろうか。

そんな自分の態度に藤本はあああーっ!と声を上げた。

「あーッ!もう。いっつもアンタはそうやっていつも何にも言わずにさ。俺だってアンタのこと気になって、何でそんな顔してるのかとか聞きたい事だっていっぱいあるのに、聞いてあげることが一番なのか、何も聞かないのが良いのか、もうわからんよ」
「・・・ごめん」
「謝られるともっと困っちゃう」
「・・・・・・」

頭をバサバサと触り藤本は俺の手を掴んで傘を無理やり握らせた。

「今、どうしてほしい?」

今。何かして欲しいなんて、解らない。

「・・・・・・キス、して」

フワリと俺の肩を掴んで顔を近づけた。
なんで自分がこんなことを言ったのかも解らないけど、
それに何も言わずに応じた藤本のほうがよっぽど怖かった。
でも、不思議と気持ち悪いとかそういう感情が沸き起こってこなくて、
ただなんとなく、藤本の温もりがあったかくて。
俺は握り締めていた傘をいつのまにか離していた。




なんでいつも俺はどこか間違った方向に進んでしまうのだろう。
空を仰ぐとキラキラと星が散らばっていて、その時にもう雨が止んでしまっていたことに気付いた。
星なんていらない。大っ嫌いだ。
伸ばしても手の届かない所でキラキラと輝いて、手に入れることなんてできない。
結局星達は誰にも優しく綺麗でいて、そして誰も近づけさせない。

「ふじもと」

近づこうとすればするほど遠ざかっていく。
いいや、違う。
きっと俺が突き放しているんだろうな。
手に入らないものと解っているなら、最初から手を伸ばさずにいれば何も後悔しない。
悔やむ事もない。空を見上げて伸ばした手が空を切ることもない。

それでも、ナゼだろう。
胸が軋んで、酷く涙が出そうになるのは。
俺は泣きたいのだろうか。
一体何に対して?
何に嘆いているんだ。
後悔するものなんて何もないのに。



>>>アトノマツリ
いや、続編書きたいけれど、そこまでウチのモチベーションが持つかどうか解らんのでいちお、読みきりで(笑
(2007/03/17)

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