夢幻3

□紫陽花に唇
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紫陽花に唇

もう何日も、雨が止まない。外はざあざあと降りしきり、中はむわっと湿気が充満している。こんな日は外にも出たくないってのに神楽は元気に新八の家へと遊びに向かった。
ごろんと、誰もいない部屋でジャンプを読む。
雨の音と、紙を捲る音しか聞こえず、だんだん睡魔がやって来る。
ちょっと寝ちまおうか、とジャンプを読みかけのままお腹にポンとおき、目を瞑る。

このまま、気持ちよく寝れそうだと思った時、玄関の戸が乱暴に開けられた音が部屋中に響いた。

「ちょっとー、今銀さん睡眠中なんですけどォ」
「邪魔するぜ」

その声を聞き、銀時は溜め息を吐いた。
横になった身体を起こし、玄関へと向かえば案の定濡れ鼠となった高杉がすでに上がってきていた。

「なんでテメーは傘差さないんですかね」
「あんなもん邪魔なだけだろ」
「はいはい、わかったから。帰った帰った」
「なんだよ銀時ィ。せっかく会いに来てやったってのに連れねぇな」

口の端を上げ、不気味に笑みを浮かべる高杉。
あぁ、どうしてコイツはいつもやっかいなんだと銀時は心に呟く。

「ウチもガキがいるんだしよォ、テメーみたいな刺激が多い奴に来られると教育に良くないわけ。わかる?」
「どうせいねェんだろ?」

あぁ、まるで不倫相手を追い返そうとしている男女みてぇだなと思うと無性に笑えてきた。
仕方ねェなと結局あいつを風呂場に押し込め、濡れた床をタオルで拭いた。
ザァザァと聞こえるシャワーの音。
そういえば着替え、と寝室にもどりタンスを開ける。
前にも同じようなことがありその時に置いていった着物があるはずだ、と探せばすぐに見つかり、あいつにしてはちょっと地味な黒っぽい着物とバスタオルを脱衣所に持っていく。
脱衣所に入ると、濡れた着物が綺麗に畳まれていて、こういうところ妙に几帳面というのか。
躾の良さみたいなのがこうして高杉の中に未だ残っていることが、どこか憎めない原因の一部なような気もする。
消えることのないシャワーの音に、ちょっとは節約しろよと思う反面、もしかして倒れてねェかと心配になり、少しだけ扉を開け中を覗いた。
降り注ぐ、湯を浴びる高杉。細い身体に、幾重もの傷が付いている。
そしていつもは右目を覆っている包帯がなく、さらけ出されていた。

「覗きとは、良い趣味してるじゃねぇか」
「ヤローの身体なんか見ても楽しくねェよ」
「ククク、よく言うぜ」

面白そうに目を細める高杉をみて、浴室の扉を閉めた。
どうせ上がってきた途端に腹が減ったとかなんとか煩くなるなと、台所に向かい昼ごはんの準備をする。
あいつどうせろくなもの食ってねェよなぁ。
朝ごはんもまだだから味噌汁とご飯と魚でも焼くかとまな板を取り出した。
トントンと、軽快な音が響く。グツグツとお湯を沸かしながら、野菜を切る。
単調な音を聞きながら銀時は無意識のうちに高杉のことを考えていた。
ときたま高杉は、フラりと万事屋に現れる。
それはまるで狙ったかのように銀時が独りで部屋に居るときで、神楽と鉢合わせしたことはなかった。だが、ほんの偶然が重なっているだけで、もしかすると今度は会うかもしれない。
内心冷や汗ものだ。
しかし毎回拒めず結局は高杉を家にいれてしまうのは、自分があいつに対して甘いところがあるのかもしれない。あいつに対して甘いのはなにも自分だけじゃなくて、辰馬もヅラも、結局あいつを可愛がってしまうのだ。



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