夢幻3

□高ぶる気持ち、さめない熱
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疲労感の漂った高杉の頬を指先でそっと撫でる。
寝ている顔は総督でも攘夷志士でもなくあの頃の幼さが残っている。
こうやって口を閉じてりゃ可愛いもんなのになぁ。
さらりと黒い猫っ毛の髪に指を通す。
昔、塾で高杉と昼寝している時に凄い形相で起こされたことがあった。
髪にガムが付いてしまったらしく(そこらへんに捨てたのは俺だけど)半泣きで『銀時』とすがって来る姿は可愛かった。

「銀時、か…?」

エメラルドグリーンの目がゆっくりと開いて撫でていた手を捕まれた。
何も言わずじっと見つめる。
緑の、透き通った瞳に吸い込まれていくような錯覚におちた。

「坂本は」

意識がはっきりとしてきたのか身体を起こし、髪を掻き揚げる高杉をエロいなと思った。

「明日の朝には帰ってくるんだと」
「はっ、女か」

金時も来るか、と誘われはしたが今はそんな気分じゃなかった。
戦に出ると高揚した気分が長引き寝付くのに時間がかかる。
そういう日は女か酒かでまぎらわすものが大概だ。

「飲もうぜ、銀時」

高杉の場合は女よりも酒の方が多かった。アイツは母親といろいろあって女に良い思い出がない。
だから毎度戦から帰って来た夜はこうして酒に付き合わされるのだが…。

「お前起きたばっかだろ」

高杉は今日は自衛の日だ。
戦に出ていない。
多分アイツなりに気を使ってることは明白だった。

「目ェ覚めたんだ。付き合え」

既に寝床から這い上がり、奥から酒を取り出している高杉に、溜め息を付く。



******



「…で、そん時にあいつが来ちまったんだよ。馬鹿だよなぁ、後からくりゃいいのに…。聞いてるか銀時」
「おーおー」

高杉の布団に二人して寝転がり、気分良く酔いながら高杉の寝物語を聞いていた。
高杉は酒が回ると舌が饒舌になる。しかもこういう二人っきりの深夜で飲むとなかなか寝させてもらえない。
適当に相槌を打つと肩を掴まれ、向かい合わせにさせられた。

「何だよ」
「お前は、いいよな」
「何が」

はぁ、と溜め息を高杉が付く。
そして今度は高杉が背を向けた。
不審な行動に、頭を捻る。
さっきまでべらべらと楽しそうに喋っていた口が、静かに閉じられている。

「どうしたんだ?高杉」
「…テメーは愛されてる」
「はぁ?」

いきなりの言葉に、奇怪な声が飛び出した。愛されてるって俺が?

「大丈夫か?酒にやられたか?」
「お前は、愛されてる」

はぁ、と酔っ払いに向かって溜め息を付く。

「愛されてるってお前の方があの鬼兵隊連中から好かれてるでしょうが」
「違う。銀時の方が、好かれている」

愛されてる、好かれてるの一点張りに、銀時は内心困っていた。
高杉が何を考えているのかが、解らない。

「お前の回りにはいつも人が集まる。皆明るい顔して。きっとお前には俺が必要無くなる時がくる」
「高杉」
「きっと、俺達はどこかで道を違える日が来る」

何かを予感しているのか、高杉の背中が、小さく震えるように見えた。

「でもな。銀時。お前は生きろよ」

高杉が振り向き、顔を近付ける。
酒に濡れた唇が合わさった。


「酒くせぇよ、高杉」
「銀、時…」


唇を放すと、高杉は目を瞑っていた右手がぎゅっと俺の服を掴んでいる。

「高杉よォ、こっちはギンギンなんですけど…」

唇を合わせるだけで元気になる息子に情けなくなるが、既に高杉から返事はこず、夢の世界へと旅立っていってしまった。

「お前にも、生きてもらわなきゃ困んだよ…。こっちも、さ」

だらだらと言いたいことだけ言って寝落ちした相手に届かないと知りながら言葉を返した。





>>>アトノマツリ
なんだかね。

(2009/01/03)

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